「宇宙ビジネス」とは何か:ビジネスモデル、代表的な企業、現状と課題

2013/09/27


「宇宙ビジネス」、みなさま知っていますか?堀江貴文さんが力を入れていることで知っている人も多いかもしれません。

が、その詳しい実態は、ぼくを含めて、ほとんど知られていないと思います。宇宙ベンチャーの創出に取り組むメディア「astropreneur.jp」を運営する石亀一郎さんに、「宇宙ビジネスとは何か」ついてヒアリングしてきたので、その概要をご共有いたします。


宇宙ビジネスとは何か

まず気になるのは、その市場規模。軍事用途なども絡むため、正確な統計データを出すのは困難であり、統計によってかなりのバラツキがあるとのことです。参考までに、内閣府のウェブサイトにアップされている資料によれば、世界で1,800億ドル(18兆円)、毎年14%成長とされています。

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また、宇宙ビジネスと一口にいっても、様々な領域が存在します。あまりこうしたカテゴライズは行われないそうですが、石亀さんによれば、以下の9種類に整理するとわかりやすいだろう、とのことです。さて、それぞれ見ていきましょう。

放送・通信衛星

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KDDIのイリジウム衛星携帯電話

まずは放送・通信衛星。BS放送や国際電話などのサービスを想像していただけるとよいでしょう。エベレスト登頂の際に使われる「イリジウム電話」なども、この種の衛星によって提供されるサービスです。


測位衛星

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(Image Credit: Garmin)

いわゆる「GPS」を提供する衛星です。こちらは民間のビジネスというよりは、世界的に国家予算を用いて「インフラ」として提供されています。日本でもちょうど「準天頂衛星」が打ち上げられたばかりです。


リモート・センシング

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(Image Credit: CSI)

今、ベンチャーがひしめき合っている領域の一つがここ。人工衛星を打ち上げ、地球の写真やデータを収集し、販売するビジネスです。たとえば「海面の温度差から漁場を割り出す」「都市計画に利用する」などなど、幅広い使い道があるそうです。事業者として「DitalGlobe」「Spot Image」などのプレーヤーが存在します。国内では「日本スペースイメージング」という会社が事業を行っています。


大企業のロケット開発

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主にJAXAの公共事業として、大企業がロケット開発を受注するものを指します。日本だと三菱重工がH2Aロケットに、IHIがイプシロンロケットに関わっていますね。

次に述べるベンチャーのロケット開発に比べると、公共事業の性質が強いため、柔軟性に欠けることも否めません。実際ロケットのコストを見ても、大企業のものは高くなっています。技術者が安全性を重要視し、特注品を使って開発していることも高コストの要因になっているとのこと。


ベンチャーのロケット開発

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代表的なのは、伝説的な起業家イーロン・マスク氏率いる「スペースX」社。この名前は知っている人もいらっしゃるかもしれません。彼はPayPalを創業し、その後、電気自動車のテスラ・モーターズ、宇宙ビジネスのスペースX、ソーラーエネルギーのソーラーシティといった会社の創業に関わり、いずれも大きな成功を収めています。

公共事業としての宇宙開発とは、スピード感や創意工夫に違いがあります。コストを下げるために既存の技術、パーツを寄せ集めて開発をしており、自動車のエンジンを応用することもあるそうで。


資源・エネルギー

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(Image Credit: JAXA)

石亀さん曰く「21世紀の宇宙産業はここ」。まだまだビジネスは立ち上がっていませんが、研究レベルでいえば、宇宙太陽光発電は技術的にすでに整備されています。この分野は日本が世界的にも先進国で、実用化への期待が高まっている分野です。さらにその先には「小惑星にいって資源を集める」というビジネスも考えられています。


宇宙旅行

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宇宙ビジネスというと真っ先に思い浮かぶのが「宇宙旅行」ですが、短期的に大きな市場になるとは考えられていません。すでに宇宙旅行ビジネスに取り組んでいる企業も、旅行以外のビジネスも同時に模索する「マルチパーパス(Multi Purpose)」で実践するのが主流になっているそうです。

石亀さんの言葉で納得感があったのは「現在の宇宙旅行(サブオービタル宇宙旅行)はリピート率が低い」という話。確かに、一回見に行ったら二回目は「もう一回見たしいいか」となりそうですね。ちなみに一般的な宇宙旅行は、2,000万円程度のコストが掛かるようです。


火星への到達

Mars1 e1377147246489(Image Credit: MarsOne)

こちらも現在ビジネス化はしていませんが、非常に「熱い」領域。火星に到達し、コロニーを建設し、入植しようという計画が、民間レベルで進められています。

もはやSFという感じですが、2023年に火星への入植を目指す「Mars One」計画などが代表的な事例です。先日第一期の火星移住者を募集したところ、なんと5ヶ月で全世界から20万人を超える応募があったそうで。驚きですね…。


その他の新興サービス

その他にも様々なベンチャーが立ち上がっており、たとえば「宇宙葬」を展開する「Elysium Space」、宇宙ステーションにあるラックを利用できる「NanoRacks」、宇宙空間で必要な機器を組み立てる「TethersUnlimited」などなどの企業が立ち上がっています。色々なアイデアが考えられそうで、ワクワクしますね。


日本の宇宙産業の現状と課題

—日本の宇宙産業の現状と課題について教えてください。

石亀さん:やはり「官需依存」、これが最大の課題のように思われます。日本の宇宙産業は「官儒」によって成り立っているのが現状なんです。
国から降りる予算は年々下がっており、宇宙産業に関わる従業員数も減少傾向にあります。世界的には成長産業であるにも関わらず、日本では従業員数が減っている。このショッキングな事実は業界内では共有されていますが、一般には意外と知られていません。

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「町工場がロケット部品を作っている」という話はみなさんも聞いたことがあると思いますが、開発コストなどを鑑みると、利益率は決して高くないそうです。JAXAも少ない予算でやりくりをしているので、ビジネス的にはそもそも構造的な問題を抱えています。実際に、このように宇宙産業に携わる人は減っています。


—これは衝撃的なグラフですね。民需を増やす鍵はどこにあるのでしょうか。

石亀さん:1つの解答としては日本発の力のある宇宙ベンチャーが立ち上がっていくことだと僕は信じています。その結果として、国が戦略的にNASAの「COTS」や「SBIR」、「NIAC」のような振興施策を打っていき、国が今やっている仕事に対してベンチャーにも門戸を開いたり、コンセプトや技術にお墨付きをつけることにより、外部の資金を活用できる方向へ持っていくことが鍵だと考えています。

ブログメディア「astropreneur.jp」は、宇宙開発をビジネスにしようと考える人を増やすための情報発信、コミュニティ活動を行っています。良い芽吹きは見えてきているので、有望なベンチャーが継続したり、立ち上がるのに貢献し、結果として国の関与を獲得していくことに尽きますね。今は閾値を越えるだけの「熱気」を作ることが大切だと考えています。

イケダより補記:日本では宇宙ベンチャーは依然黎明期ですが、超小型人工衛星の開発を行う「アクセルスペース」社、「Google Lunar X Prize」に参加している日本初の民間宇宙開発チーム「HAKUTO」、代表者がたったひとりでエンジンを開発している「PDエアロスペース」、堀江貴文さんが率いる「SNS株式会社」といったプレーヤーが存在しています。


今、熱い宇宙ベンチャーのリスト

最後に、石亀さんから今熱い宇宙ベンチャーのリストをいただきました。有力プレーヤーを把握することができる、貴重なリストです。

SpaceX:イーロン・マスクによって立ち上げられた、もっとも注目すべき宇宙ベンチャー。
OrbitalSciences:1982年創業の古参企業。人工衛星の製造・打ち上げを行う。上場企業でもある。
BlueOrigin:Amazonの創業者、ジェフ・ベゾズが立ち上げた宇宙ベンチャー。外部からの資金調達はしておらず、ステルス状態で経営している。
StratoLaunch System:マイクロソフト創業者のポール・アレンが設立した「空中発射ロケット」ベンチャー。
Virgin Galactic:ヴァージン・グループのリチャード・ブランソンが設立した宇宙旅行ビジネス会社。
XCOR Aerospace:市場からの資金調達でビジネスを立ち上げている、比較的小規模なベンチャー。
Copenhagen Suborbitals:非営利組織(NPO)として運営されている組織。クラウドファンディングサイトを用いて資金調達を実施。
インターステラテクノロジズ:堀江貴文さんが率いる宇宙ベンチャー。
Masten Space System:実証実験サービスを提供する企業。
Deep Space Industries:これから熱い領域、小惑星の資源開発に取り組む企業。
Planetary Resource:同じく小惑星資源開発に取り組む企業。ジェームズ・キャメロン、エリック・シュミット、ラリー・ペイジなどの著名人が投資。宇宙望遠鏡の開発資金をクラウドファンディングサイトで集め、1.5億円を集めたことでも注目を浴びている。
Bigelow Aerospace:ホテル王・ロバート・ビゲローが1999年に創設した企業。「宇宙ホテル」の実現に向けて取り組んでいる夢のある企業。
MarsOne:2023年に火星への到達を目指す非営利組織。プロジェクトの総額、5000億円はテレビ局とのタイアップで集める。
Inspiration Mars:2018年に火星スレスレまで到達し、着陸しないで戻ってくる、という計画。長い搭乗となるため、乗組員は夫婦で参加することになっている。
Moon Express:月にソフトランディングするための技術を開発する企業。
Astrobotic Technologies:NASAの技術者が立ち上げたベンチャー。探査車の開発で進んでいる。
NanoSutisfi:安価かつ容易にアクセスできる小型人工衛星を開発する企業。
Kymeta:世界中の人々にネット環境を整えようと画策する企業。ビル・ゲイツも出資。
Skybox Imaging:いわゆるリモート・センシング系の企業。
Planet Labs:同じく、リモート・センシング系の企業。
Final Frontier Design安価な宇宙服のデザインを行っている企業。安価な宇宙服のデザインを行っている企業。


宇宙ビジネスこそ「Next Big Thing」:まずは知ることから

テクノロジー業界においては、インターネットが普及し、ソーシャルメディアが普及し、次なる「Next Big Thing」は一体何か?という議論がしばしばなされます。その答えは論者によって変わりますが、石亀さんは自信たっぷりに「宇宙ビジネスこそ、Next Big Thingです」と語ってくださいました。

最先端の情報に触れているビジネスパーソンですら、宇宙ビジネスの現状、課題、展望を詳しく知る人は多くないでしょう。astropreneur.jpはそうした情報を発信する、貴重なコミュニティ&メディアとなっています。次のチャンスを掴みたいビジネスパーソンは必読の媒体といっても過言ではないでしょう。

astropreneur.jp


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