■「科学者」にだまされない
こういった非科学で問題になるのは、それを科学のように見せる科学者の存在です。
私も研究者としてこの点は特にはっきりしておきたいところですが、学会で発表したとか、研究しているという程度のものを科学と呼んではいけないと思っています。しっかりした学会の論文として、査読のプロセスを経て掲載され、手順を踏んだものを科学と呼ぶべきと考えています。
ドラッグストアの店頭に並ぶ様々な健康食品
例えばある食品を与えるグループと与えないグループの比較対象実験を行ったとします。そのグループの差異を生み出す要素が、その与えた食品以外、完全に同じにしてこそ実験の意味があります。しかし、その状況を整えることは、それほど簡単ではありません。
また統計学を専門としている立場から見ていると、統計の数字を都合のいいようにいじる人が、残念ながら研究の世界には存在しています。そういったものを排除するのが査読というプロセスなのです。
つまり、「○○大学の○○教授が効果があると言っている」は、科学的根拠にはなりません。その先生の論文が、査読を経てその学会で認められてこそ、初めて効果があるという科学的根拠になるでしょう。
■危険を煽ってるものこそ危険
実は、簡単に非科学と科学を見分ける方法があります。「マッチポンプ」をしているかどうかです。
「世の中の食べ物は何を使っているかわからないので危険。だけどこれを飲んだら健康になれる」というようなものです。「危ない」と危機感をあおって、これで危険から回避できると自社の商品を売り付けるマーケティングの方法を、マッチポンプ商法と言い、古くから使われています。
そういう食品の大部分には、まず疑いの目を向けるのがよいでしょう。
先進国において、食べ物に危険なものなどほとんど存在していません。食べ物のリスクは過去と異なり、現在は厳しい管理下に置かれ、細菌やヒスタミンなどの食中毒以外、リスクは極めて低いからです。欧州でリスク管理の目安となる、100万分の1以下のリスクに抑えられており、ほとんどが1億分の1以下です。
「危険」という言葉がもつイメージは、食べたら50%くらいの確率で健康被害を受ける感じではないでしょうか。実際には、それとはかけ離れて小さなリスクなのです。
それを「危ない!」と言いきって物を売る商法には、乗らないほうが賢明なのです。
有路昌彦
近畿大学農学部准教授。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科博士課程修了(京都大学博士:生物資源経済学)。UFJ総合研究所、民間企業役員などを経て現職。(株)自然産業研究所取締役を兼務。水産業などの食品産業が、グローバル化の中で持続可能になる方法を、経済学と経営学の手法を用いて研究。経営再生や事業化支援を実践している。著書論文多数。近著に『無添加はかえって危ない』(日経BP社)、『水産業者のための会計・経営技術』(緑書房)など。
[ecomomサイト2013年4月9日付記事を基に再構成]
[参考] 家族と自然にやさしい暮らしがテーマの季刊誌『ecomom(エコマム)』。2013年秋号では、「魚をもっとおいしく食べよう!」「シェアする乗り物ライフ」「パーム油の産地ボルネオを訪ねて」などを特集。公式サイトで登録すると、無料で雑誌が届く。
酵素、健康食品、マッチポンプ商法
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