舌癒着症(ぜつゆちゃくしょう)とは

このサイトで紹介する舌癒着症とは、舌のくっつきかたの異常が、のどの異常(喉頭偏位)を引き起こし、慢性的に呼吸がしにくい状態になってしまう病気です。……が、一般的には、呼吸に影響を及ぼす病気だとは認識されていません。

舌癒着症研究の第一人者は神奈川県大和市にある向井診療所の向井將先生(以降「向井医師」)ですが、向井医師の定義する舌癒着症と、一般の医学界で認識されている舌癒着症は、概念として違うもので、医師の問題意識も異なります。まず、両者のとらえ方の違いから説明します。


一般的に認識されている舌癒着症


舌の裏側にある、舌と下あごを繋ぐ筋を舌小帯(ぜっしょうたい)と呼びます。これが短くて舌が上手に動かせない状態を、一般的に舌癒着症(ぜつゆちゃくしょう)と呼びます。舌短縮症、舌小帯短縮症と呼ぶこともあるようです。

舌小帯が短くて舌が上手に動かせないことで、赤ちゃんの場合はおっぱいが上手に飲めない(哺乳障害)、3~4歳ぐらいになると発音が上手にできない(構音障害、発音障害。特にサ、ラ行)、といった問題が起こります。これらの治療のためには、手術で舌小帯を切ります。

とはいえ、実際の医療現場では「おっぱいが上手に飲めない」ことに対する対処として、とりあえずおっぱいマッサージをしたり、飲みやすい人工乳(ミルク)を勧めることが多いようで、まず舌小帯を切ることはないようです。

発音の障害がひどい場合には舌小帯の手術が行なわれることがあるようですが、小学校に上がる直前ぐらいの年齢に行なわれることが多く、また、かなりレアケースとなります。基本的に、小児科の世界では舌癒着症という病気の存在を認めていないようです。


向井医師が定義する舌癒着症


舌小帯が短いことで舌が正常な人よりも前に位置し、そのためにのどの一部が引き攣れてゆがみ(喉頭偏位)を生じ、呼吸障害を起こしてしまう、というのが向井医師の定義する舌癒着症です。舌・喉頭偏位症、ADEL(Ankyloglossia with Deviation of the Epiglottis and Larynx)とも呼びます。

つまり、一般的な舌癒着症は「舌が短い」ことによって「おっぱいが飲めない」とか「発音がうまくできない」ことが問題だと考えられていますが、向井医師の定義する舌癒着症ではそれらに加えて、舌の癒着に起因する喉頭偏位のため「呼吸が十分にできない」ことが最大の問題となります。

「衣食足りて礼節を知る」

という故事成語があります。食べるもの、着るものに困らない程度の生活の余裕を持てて初めて、人間は礼儀や節度をわきまえ、一人前の社会人として生活ができます。社会的にマトモに暮らす条件として、衣食が十分であることが必要ですよ、という意味ですね。

舌癒着症の人は、衣食以前の問題として「呼吸」が、酸素が足りないんです。これは人生の根本に関わる障害だといえます。ですから、生まれてからできるだけ早く手術し、呼吸状態を改善することがベストの対処とされます。

ネットの大手サイトで調べると、 Yahoo!ヘルスケアでは、そんな病気はないと言われます。 goo ヘルスケアだと出てきますが、やはり舌オンリーの問題、発音の問題として解説されています。


人間の94%は舌癒着・喉頭喉頭偏位を持っている!?


向井医師によると、程度の軽重の差こそあれ、ヒトの94%は舌癒着症の症状を持っており、これは優性遺伝によって遺伝するそうです。しかも、そのうち27%は重度の舌癒着で、これによる呼吸困難が、乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因のひとつではないかとして、研究されています。

優性遺伝する資質は病気でないのでは? 神様が造った人間のパーツを切る必要があるのですか? という質問に対し、向井医師は「君は、神様は一切の間違いをしないと思っているんだな」と返事をしたのだそうです。

舌小帯を切るというのは、かつては助産婦さん(産婆さん)が、生まれてすぐの赤ちゃんを見てハサミで切ったりもしていたそうです。でも20世紀に入って、小児科の世界で「切る必要はない」という見解が広がったそうで、今日では舌小帯を切る必要がある・ないどころか、舌癒着症というものの存在すら、ほとんど認知されない状態になってしまっています。

少々話が脱線しますが、どうもこのあたりの問題には、近代的な管理体制の中で出産・育児を進めようと考える医師と、昔ながらの自然に近い出産、母乳中心の育児を志向する助産師などとの意見対立も、背景としてあるような感じです。


まずは向井医師の提唱する「舌癒着症」という概念があることを知ってください


医学は現代も発展途上であり、以前はありふれた病気の一種だと考えられていたものが近年になって全く違う新しい病気として発見された、なんてこともままあるようです。

例えば「膠原病」という病気は、全身に症状が現れるため、臓器ごとに考える昔の病気の概念では、ひとつの病気として認識されていなかったそうです。1942年に共通の原因から起きるひとつの病気であると提唱され、今日では膠原病という概念が広く定着しています(最近では、自己免疫疾患というさらに新しい概念も生まれているようです)。

向井医師の定義する「舌癒着症」という病気の概念も、今後はポピュラーなものとして定着するかもしれません。現在、別項にて紹介しているような症状で病院に行っても、まず「舌癒着症」という診断が出ることはありませんが、いくつかの特徴にピッタリとあてはまる人が、舌小帯の手術によって実際に改善できる、という事例が集まれば、「舌癒着症」という病気は広く知られ、治療が広く行なわれることになって、多くの人がこれまでより呼吸しやすく、生きやすいようになるかもしれません。

まあ、逆に、「舌癒着症」なんてのはなかった、と証明される可能性もあるわけですが。

別項で紹介する舌癒着症の特徴などを見て、自分や自分の子どもが当てはまるなあと感じたら、まずは舌癒着症の治療に積極的な病院を訪ねて、相談してみてください。

現状では手術をする、しないの選択は自己責任で! となりますが(ちなみに治療費も保険が効かないので自費です。極端な舌癒着による発音障害に対しては保険が効くこともあるようですが、よく分かりません)、これまでの人生の悩みが全て解決するかもしれませんし、とりあえず一部は解決するかもしれません。


参考資料:

向井医師の、診療と研究についての手記
向井診療所のサイトは2007年頭にいきなり消えてしまったので(プロバイダーの解約か何かが原因だと思われます)、GoogleキャッシュをWeb魚拓で残しました。向井医師の研究について、特に舌癒着症についての思いが「しかしながらこの発見により,いままででは医学界から無責任な回答しか与えられなかった指しゃぶり,夜泣き,哺乳障害,多動,肥満,SIDSなどに答が次々と出されている。いまや人類の未来はADELの克服にかかっていると確信している」などと書かれています。

池川クリニック 舌癒着症講演会2001/12/2
舌癒着症に関する公演記録、向井医師や舌癒着症に反対の医師が参加した討論会の記録など、貴重な情報があります。