アジアに幽霊が出る。愛国心という幽霊である―。日中韓の緊張が続く中、マルクスとエンゲルスの有名な言葉にあやかりたくなる。そこにロシアが加われば緊張が激化しはしないか。心配が募る
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ロシアのプーチン政権が先日、大学入学までの歴史教科書を統一するため、指導要領の原案を示した。ナポレオンやナチス・ドイツの侵略を撃退した過去の戦争を強調することで、愛国心や自国の歴史に対する誇りを育むことを狙っていると報じられた
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「強いロシア」を掲げて大統領に返り咲いたプーチン氏だけれど、強権的な政治手法には内外からの批判が多い。国民を束ねるために、愛国心を利用しようということなのか。日ロ間に横たわる北方領土問題への影響も気掛かりになる
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愛国心は、それが疑心暗鬼や恐怖心、誤った情報と結びつくと醜悪なものとなる―。オーストラリア国立大教授のテッサ・モーリス=スズキさんは6年前、自著でこう指摘した。安倍晋三首相が第1次政権を放り出したころだった。残念ながら、この警告は通じていないようだ
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首相は今また、「日本を取り戻す」と訴え、愛国心を鼓舞している。中国や韓国も同じだ。テッサさんはこうも記す。差別思想に結びつく危険性などへの理解を深めずに「愛国心を教えることほど無責任なものはない」。各国の指導者には、胸に深く刻んでほしい言葉である。