ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 9月24日(火)20時53分配信
アメリカのジョージ・メイソン大学のシンクタンク、「宗教および外交と紛争解決に関する国際研究センター(Center for World Religions, Diplomacy, and Conflict Resolution, CRDC)」のディレクターであり、ナショナル ジオグラフィックの探検家でもあるアジズ・アブ・サラ(Aziz Abu Sarah)氏は先月、シリア難民の子どもたち数百人のためにサマーキャンプを開催する目的で、現地スタッフとボランティア数人とともに、トルコとシリアの国境沿いで数週間を過ごした。現地は予想以上に深刻で、一触即発の状況を迎えているという。サラ氏に、その問題点を挙げてもらった。
シリア、トルコ、ヨルダンで暮らすシリア難民を訪ねたのはこれで3度目。訪問する度に視野が広がり、現地でしか知り得ない現実がいくつか見えてきた。
◆1. 数に入っていない難民が大勢いる
シリア難民の実際の数は、国連の公式発表よりはるかに多い。隣国で暮らす難民は200万超とされているが、これはシリアの出国時、または亡命先の国に到着した時点で、国連に登録された数に過ぎない。
しかし、筆者はトルコとヨルダンを訪れた際、難民登録を済ませていない多くのシリア人に出会った。国連の統計に含まれない人々だ。例えば、10日前にシリアのホムスから、トルコ南部、ハタイ県の難民キャンプに到着したばかりの貧しい家族は、ほかの多くの同胞のように、トルコに不法入国している。
◆2. 受入国も危機にある
多数の難民を受け入れる隣国は、インフラ不足に直面している。難民の状況や受入能力の欠如の深刻度は、レバノンの現状が物語っている。レバノンが受け入れたシリア難民は71万6000人に上り、420万人の人口がわずか12カ月で17%増加した。世界中を見渡しても、この状況に対応できる国はどこにもない。
以前から水に関する大きな問題を抱える隣国ヨルダンも、危機的な状況に陥っている。難民が殺到してから1年後、14万4000人が集中するザアタリ(Za'atari)キャンプを訪れた5月には、水くみの長い列ができていた。キャンプ外のヨルダン国民も、水不足に不平を募らせている。
◆3. 子どもの教育が無視されている
難民の半数以上を占める子どもへの対応にも、受け入れ国は苦労している。現地の子どもが通う学校への編入は不可能な上、これだけの人数を収容する施設の新設も極めて難しい。筆者が訪れた国で出会った子どもの大部分は未就学で、どのような形の教育も受けていない。
武力紛争が勃発し、緊急の人道支援が求められる段階では、残念ながら教育は二の次となる。しかし今、見通しを誤れれば5年後には、教育を受けておらず、おそらく公民権すら奪われ、いつ過激派になってもおかしくない世代に世界は対応を迫られることになるだろう。
◆4. 多くのシリア難民はいまだ自国にとどまっている
シリア国内には、住む場所を失った国民が400万人以上もとどまっている。国境越えの困難さに直面し、対立に巻き込まれ、または祖国を捨て去るべきでないと信じる人々。さらに、未知の世界への恐れもある。
シリア国内の難民キャンプの生活環境は、トルコやレバノン、ヨルダンよりはるかに劣悪だ。食糧や薬、水は明らかに不足しており、しかもキャンプで暮らしているかどうかに関わらず、常に銃弾が飛んでくる危険にさらされている。
◆5. 難民キャンプは監獄に似ている
キャンプに入った難民は、登録後に門とフェンスで囲まれた空間に閉じ込められる。武装警官が警護する中、自由意志の外出は許されず、日常生活も管理される。働く機会を奪われ生産活動に関われない生活は、一番の精神的ダメージを被る。1日分の食料と水を受け取って、希望もなくただ待つしかない。まるで監獄だ。
このような生活に耐えられず、危険を犯してでもシリアへの帰還を選択する者もいる。筆者がザアタリ・キャンプを訪れたとき、ヨルダン側の管理事務所の前に100人ほどの列ができていた。危険を知りながら、今すぐキャンプを出てシリアに帰国する許可を求める人々が並ぶ。
シリアの未来が決まるのは戦場だけではない。何百万もの難民、住む場所を失った人々も、戦後の国の行く末を左右することになる。国際社会は、教育や医療、心的外傷の治療に重点的に取り組むべきだ。武力紛争の終結後、シリアがより良い未来を築けるかどうかは、こうした人々にかかっている。
Aziz Abu Sarah for National Geographic News
最終更新:9月24日(火)20時53分
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