きょうの天鐘

●天鐘(2013/09/26掲載)
 「シベリア」というお菓子をご存じだろうか。2枚のカステラの間にようかんを挟んだもので、岡田哲著『たべもの起源事典』には大正から昭和にかけて流行したとある。和洋折衷っぽさがいかにも当時の日本らしい、ハイカラなスイーツである▼その古いお菓子が、時代を超えて再び注目されている。きっかけは宮崎駿監督のアニメ映画「風立ちぬ」。主人公が帰宅途中で購入する場面があった。多くの現代人にはなじみが薄いが、劇中では詳しい説明はなく、逆に観客の関心を呼んだらしい▼昭和7(1932)年創業の工藤パン(青森市)もこのお菓子を手がけている。ただ、商品にははやり廃りが付きもの。製造と中止とを何度か繰り返したという。昨年4月にまたつくり始めたのは偶然だったそうだ▼地道に製造していたが、今月に入って注文が急増した。先週以降は普段の8〜10倍のフル生産。うれしい悲鳴である。同社総務部の青山忍次長(40)は「映画を見て食べてみたいというお客さまが多いようです」▼1世紀近い時間を巡るお菓子の人気。ふと、100年後に現代人は何を残せるだろうと考えた。うまい食べ物、住みやすい地域―とあれこれ浮かぶ。一方、10万年も監視が必要なゴミは子孫も迷惑だろうな…とも▼近くのスーパーで買ったシベリアを手に取った。黄色と茶色のしま模様を一口。甘い。初めてなのに何だか昔懐かしい。未来に伝えるなら絶対こっちがいい。