対談の前に、新納さんがローラさんにご自身のライブタオルをプレゼント。 「まあ素敵!NIROCK〜!!」とノリノリで首にかけてくれたローラさんなのでした。 |
ローラ | 稽古を始めて1週間ほどですが、とても素敵なスタートを切れたと思います。キャストの皆さんは才能豊かで、クリエイターチームは協力的で知性にあふれ、最高の形で日本版の『NTN』を作り上げていますね。 | |
新納 | 正直、ローラを迎えるまでにみんな台詞も歌も、完璧に覚えられていなくて……「まだこの段階なの?」って驚かなかった? | |
ローラ | そんな風には思わなかったわ。もちろん最初は、皆さんがどの段階にいるのか見極める感じでしたが、まだ時間はあるし、何より音楽チームが自分と共通の理解を持ってこの作品に臨んで下さっているとわかって、とても安心しました。これは全編歌で引っ張っていく作品なので、そうした理解がある上で、キャストをサポートしていくことが大事なんです。でも、すでに新納さんをはじめ、キャストの皆さんはかなり進歩を見せてくれていますよね。 | |
新納 | 本当に?そう聞いて少し安心した(笑)。 |
新納 | あまりに衝撃を受けて、2回観たんですよ。一番の衝撃は、音楽の素晴らしさですね。それからストーリーにも驚いて、これは絶対にもう一回観なければ!と思い、また観に行きました(笑)。僕が観たのはオフ・ブロードウェイの公演で、まだあまり情報がなくて、「精神病の話」ぐらいに思っていたんです。ところが手を叩いて笑ったり、ショーストップになる場面もあって。なのに観終えた後には、テーマがちゃんと残っているからすごいなと。僕は暗い話があまり好きではないので、シリアスとそうでない部分の塩梅もすごく良かった。あと、自分が20歳若かったら、ゲイブをやりたいと思いましたね(笑)。 | |
ローラ | そんな、5年ぐらいじゃない? | |
新納 | まさか(笑)。でも、とにかく大好きな作品だったので、出演のお話を頂いた時は「やったー!」という感じで。これは余談だけど、この時に一緒に観た友人が、それまでミュージカルに全然興味がなかったのに、『NTN』にハマって全米ツアーも観に行って、今ではすっかりミュージカルおたくになってるんだよ。 | |
ローラ | それはよかった(笑)。 | |
新納 | それぐらい衝撃的な作品だと思います。ただ今回、初めて台本の読み合わせをした時に、すごく暗い感じがして。シリアスな題材だけに、読み方次第でいくらでも暗くなるのだとわかりました。特に日本人は何事も暗く受け止めがちなので。でも、オフでこの作品を観た時、いかにもニューヨーカーらしいというか、ポップで明るいタッチで描かれていたからこそ、精神的な病の治療のこと、家族や夫婦、恋人、ドクター・マッデンの心理までを、すごく心が柔らかい状態で受け止めることができた。そう考えると、シリアスに演じることだけが、この物語を伝える術ではないのではないかと…。 | |
ローラ | すごく興味深いお話です。というのもこの作品は、さまざまなことに直面する中で、喜びも悲しみも、痛みも感じる、つまり多面的な人間というものを描いているので。私たちの役目はお客様にもいろいろな感情を持って頂くことで、それはオリジナル版の演出家・マイケル・グライフがこの作品に込めたテーマでもあります。彼が素晴らしいのは、ある瞬間の真実を常に見出すことができることであって。笑える瞬間も、悲しい瞬間も、リアルに伝えることにマイケルは重点を置いていたので、それを私も日本で実現できればと思っています。 |
ローラ | 『NTN』は1998年頃に、トム・キット(音楽)とブライアン・ヨーキー(脚本・歌詞)が作った10分ほどの作品が基になっています。それをBMI Lehman Engel Musical Theatre という、ミュージカルの作家のためのワークショップで見せる際に、私はナタリーとして歌ったんですよ。 | |
新納 | そうなの!? | |
ローラ | まだコロンビア大学の学生で、もっと若くて(笑)。でも、今とは曲も違うし、『Feeling Electric』というタイトルでした。その後、2005年にニューヨーク・シアター・フェスティバルで上演する時からアシスタント・ディレクターを務め、ブロードウェイでオープンするまでのすべてのプロセスに関わってきました。演出のマイケル・グライフとはニューヨーク近郊のウィリアムズ・タウンの演劇祭で彼が作品を上演する際、アシスタント・ディレクターを務めて以来の付き合いです。最初は未完成の小さな作品だったものが、『RENT』の演出家であるマイケルが加わり、続いてプロデューサーのデイビッド・ストーンが加わって、どんどん育まれて最後に『NTN』になりました。そんな風に『NTN』が生まれた頃からオフ・ブロードウェイ、さらにブロードウェイへと作品が発展して行く過程を見れたことは、とてもラッキーでした。 | |
新納 | 本当に、長い時間をかけて一つのミュージカルが作られていくんだよね。日本は半年ぐらいで作ることも……うらやましいかぎりです。 | |
ローラ | でも、アメリカでも最初から10年分の資金と時間を与えるから作品を書いて、なんてことはなくて。作品の可能性を信じて資金を出して支えてくれる人たちがいるからこそ、作品を発展していくことができる。トムとブライアンもそうでした。これは余談ですが、トムは私の義理の兄なんですよ。 | |
新納 | そうなんだ! 一つローラに教えて欲しいのが、僕がオフで観た時には、ドクター・マッデンのソロがあったんだけど・・・。 | |
ローラ | ロックな曲でしょ? 気に入った? | |
新納 | というか、あの曲があるから自分はドクター・マッデン役に指名されたのだと、ずっと思っていた。そのソロがないことに気づいたのが、ローラが来る4、5日前だったという……。 | |
ローラ | 確かにあのナンバーは、新納だったら素晴らしく歌って下さったでしょうね。ロックスターでもあるし。 | |
新納 | いや、でもありがとうございます(苦笑)。ちなみにあのソロが無くなった理由とは? | |
ローラ | この作品、あのシーンにとってベストな曲ではなかったから。そういう判断で、ブロードウェイの劇場に移る時に、トムとブライアンが書き直したんです。 | |
新納 | なるほど、そうだったんだ…。 |
新納 | 面白いですね。ただ、今、僕がマッデンについて感じていることを、ここでローラに伝えるべきなのかどうか……。 | |
ローラ | ぜひ話してみて下さい。 | |
新納 | では言いますね。僕にはマッデンが患者のダイアナに対して、途中からたんなる治療とは違う目的を持っているように思えるんですよ。 | |
ローラ | なるほどね。一つ言えるのは、作者のトムとブライアンが常に目指していたのは、精神的な病に対する一つの見解だけを述べないということ。それから私が思うのは、映画における精神的な病の治療の描き方は、どちらかというとホラーチックですよね。 | |
新納 | 確かに。 | |
ローラ | だからこの作品に対しても、そういうイメージを持たれるかもしれないけれど、それは違いますね。 | |
新納 | そうなのか……まあ僕の役者としての素材が、マッデンに怪しい何かを感じてしまうのかもしれないのですが。 | |
ローラ | 知っているわよ。新納さんは『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の歯科医を演じられているんですよね。でも、彼とマッデンはまったく違うタイブ。あの歯科医はまさにマッド・ドクターだから(笑)。 | |
新納 | そうなんですよね(笑)。だけど難しい……これがもし、歯科医や外科医であれば、患者の「ここが悪い」というのがわかりやすいし、その治療を進める、という風に受け止められるのでしょうが、精神科医だけに何か別の意図を持ってダイアナに接している気がして。 | |
ローラ | 稽古は始まったばかりなのだから、これからもっともっと話していきましょう。 | |
新納 | ぜひお願いします。 | |
ローラ | 一度本物の精神科医の方に、みんなで話を聞く機会が設けられたらとも思っています。この作品を演じる上で、助けになるはずなので。 | |
新納 | そうだね。それから楽曲も本当に素晴らしいんだけど、日本初演ということもあり、歌詞を日本語に乗せていうのが今はとにかく大変で。 | |
ローラ | だけど今回のキャストは素晴らしい声の持ち主ばかりだから、大丈夫。みんなで歌のブートキャンプをやって頂こうかなと思っていますし。 | |
新納 | ブートキャンプだね(笑)。そうやって本番までにはこの楽曲の良さをお客様に伝えられるようにしたいですね。 |
新納 | この作品の魅力を一言で表わすのは難しいですが、数多くミュージカルをやってきて、何度か日本初演にも関わっている僕が今感じているのは、何作品かに一度そういう感覚になる時がある「これは凄いぞ!」という感覚がこの作品にはあるという事です。この作品は「あの初演を観たよ!」と言えるような、伝説の初演になるだろうなって思う。22年の経験上、「その匂いがあるよ!」と言いたいですね。 | |
ローラ | これは誰もが共感できる物語だと思います。何かに挑戦している方、病気や家族、あらゆる問題に直面している方の心に訴えかける音楽があり、一つの劇的体験として、いろいろなレベルで心を動かされるはずです。さらに素晴らしいのは、今回の日本初演では演出はもちろん、電飾やセットは全米ツアーと同じだということ。プロードウェイのプロダクションのクオリティーを日本のお客様に観て、楽しんで頂けたらと思っています。 |