薬で糖尿病を抑えることの怖さ
そんな考えの医師もいますが、私はその考えには大反対です。
薬物療法で血糖値を安定させることには副作用がつきものであるからです。その最たるものは先日も記事にさせて頂いた低血糖です。前述のような事を言う医師はもっときちんと低血糖の怖さを認識すべきです。
薬の怖さはまだあります。
血糖値を下げるために薬を使ってインスリンを増やすと、血液中にインスリンが多い状態である「高インスリン血症」と呼ばれる状態になります。
インスリンは血糖を魔法のように消しているわけでは決してありません。インスリンが作用することで筋肉に血糖を取り込ませたり、それでは対処しきれない場合には血糖を脂肪へ変換させることで血糖値の上昇から身を守っています。そのせいで使いすぎると太るというデメリットもあるために、インスリンは別名「肥満ホルモン」とも呼ばれているわけです。
しかしながらこのインスリンが多い状態が続くと、インスリンには細胞増殖、成長促進作用があるので、過剰に細胞が育てられた結果がん細胞を作ってしまうリスクが高まることが示されてきているのです。
さらにこれだけではありません。
2008年にACCORD試験という糖尿病に関する衝撃的な研究結果が発表されました。
これはインスリンやSU剤などの薬を使って厳格に血糖値を下げた群(平均HbA1c6.4%)と食事や運動療法通常の血糖管理群(平均HbA1c7.5%)とでどちらが良いかというのを調べた研究です。
普通に考えたら厳格に血糖値を下げた方が良いに決まっていると考えると思いますが、結果は衝撃的なものでした。
なんと薬で厳格に血糖を下げた群の方が脳卒中や心筋梗塞などの心血管合併症が多く、死亡率も高かったということがわかったのです。
そしてこの研究、5年の観察期間を予定していましたが、あまりに急速に厳格コントロール群の方で死亡者が増えていくので3.4年の時点で緊急中止になった非常事態ぶりです。
私は糖質制限の事を知るまでは、この試験の結果が不思議でなりませんでした。
「じゃあ、血糖値を下げすぎても駄目なのか、糖尿病というのはジリジリ悪くなっていくのを見守っていくしかないのか…」と当時非常に落胆を感じたことを覚えています。
しかし今ならこの疑問が氷解します。
要するに従来のカロリー制限食が糖質50-60%で提供されていたために血糖値の乱高下が防げず、動脈硬化を進行させ、なおかつそこにインスリンを加えて高インスリン血症をきたし、低血糖のリスクも上げてしまったから合併症も死亡率も上昇してしまったのです。
確かにこれではよくなるわけがありません。
しかも従来のカロリー制限食というのは並大抵の努力で守れるものではありません。その理由も糖質の依存性を考えればわかります。糖質をとっている限り、食後のたびに強烈な空腹感が襲ってくるのです。
糖質制限食はそれらの問題点を全て解決させる画期的な食事療法です。
糖質制限に反対する医師はよく「長期の安全性が保証されていない」とよく言いますが、従来のカロリー制限食+薬物療法の危険性はもうとっくに証明されているのです。どちらが「危なっかしい」治療か、誰がみても明らかではないでしょうか。
これで糖質制限を勧めない手はないと思います。
たがしゅう