クローズアップ2013:JR北、異常放置 特異な企業体質、背景 補助金漬け、責任あいまい 採用抑制、中核世代少なく
毎日新聞 2013年09月25日 東京朝刊
JR北海道がレール幅の拡大など多数の異常を放置した問題では、その後も次々と検査体制や記録の不備が発覚している。79人が負傷した石勝(せきしょう)線の特急脱線炎上事故(2011年5月)以降トラブルが絶えず、「安全軽視」と言える企業体質がなぜ生じたのか。その背景を探る。【遠藤修平、久野華代、伊藤直孝、松谷譲二】
「道外から訪れる多くの方々の信頼も大きく損なう危機的な事態だ」。北海道の高橋はるみ知事は24日、開会中の道議会本会議で、JR北海道がレール異常を放置していた問題に言及し、再発防止策は「外部の視点」を踏まえるべきだとの認識を示した。菅義偉官房長官は同日午前の記者会見で「事故が頻繁で、(異常が)分かって対処しないのは悪質性がある。組織、体質的な問題もあるのではないか」と批判した。
旧国鉄が旅客6社・貨物1社に分割・民営化されたのは1987年。このうちJR北海道は他社に比べ過疎地域を走る路線が多く、除雪などに膨大な経費がかかり、経営基盤は弱い。このため、国は経営安定基金という「持参金」をもたせ、その運用益で赤字を穴埋めしてきた。
ただ、その基金も近年の金利低下の影響を受け運用益が減少。一時は上場も目指したが果たせず、厳しい経営が続いていた。鉄道事業収入は96年度の800億円をピークに減少している。基金投入という第三セクター的な経営に慣れきって、責任の所在があいまいになっていると指摘する関係者もいる。ほぼ同じ営業キロ数のJR九州は営業黒字(2012年度末現在)を確保しており対照的だ。
赤字経営は人材確保にも影響し、1980年代に採用を大幅に抑制。5月現在で社員約7000人のうち最も多い50代は37・7%。次いで民営化後に入社した20代が27・4%。現場の責任者になるべき40代は9・5%と極端に少ない状況が続いている。国土交通省関係者は「ベテランの職員がどんどん定年退職している。その一方で、採用すべき若手の人員は経営難で抑えているので、技術が伝承されにくい」とJR北海道の人材育成が行き届いていない現状を指摘する。
だが、「いびつな年齢構成は北海道に限った話ではない。事故多発は別に固有の問題があるのではないか」(JR他社の幹部)との声もあり、「なぜ異常が放置されたのか」の答えはまだ見えてこない。JR北海道の豊田誠・鉄道事業本部長は24日の記者会見で、この問いに「いまだにお話しできるところまで状況がつかめていない」と述べることしかできなかった。