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【モータースポーツ】

<遠藤智のGP_Circus>タカアキのサンマリノGP

2013年9月25日 17時31分

写真

 もう先々週のことになってしまうのだが、ミサノで開催されたサンマリノGPは、飛び魚にとっては、久しぶりに苦しくて厳しいレースウイークだった。その理由はいくつかの締め切りが重なってしまったからで、サーキットでは、その日その日の仕事をこなすだけで精一杯。ホテルに戻ってからは、迫り来る雑誌の締め切りに向けて、せっせと原稿を書いた。それほど大量にあるわけではないのだが、昼間の仕事の疲れもあり、パソコンに向かってもなかなかはかどらない。結局、サンマリノGPが終わっても、締め切りとの格闘は続き、月曜日と火曜日はホテルから一歩も出ずに原稿を書くことになってしまったのだ。

 そういう状態だったので、『GP_Circus』&『飛び魚日記』も書けない日が続いた。そして、雑誌の締め切りから解放されてからも、何も書けない状態が何日も続いてしまったのだ。書けない理由はわかっている。わかっているけれど、どうすればいいのだ、と思っていたのだ。

 サンマリノGPを終えたときに、実はこの写真を使って、『GP_Circus』を書こうと思っていた。準備万端だったのだが、チェッカーを受けてパレードラップするタカアキが祥也のステッカーが貼られたガードレールに赴き、手を合わせるというシーンをドルナのサイトで見てから、何も書けなくなってしまったのだ。

 これ以上、何を書けばいいのだ・・・と思ってしまった。映像の力をまざまざと見せつけられた瞬間だった。

 僕が書こうとしていたのは、予選が終わった土曜日の夕方のことであり、決勝レースが終わってからのことだった。サンマリノGPを訪れていた祥也の母・有希子さんと、祥也の所属していてチーム・CIPのスタッフ、祥也のことが大好きだった大勢のひとたちが事故現場の11コーナーに集まった。そこにはタカアキもいて、献花を終えた後、タカアキは、急にだまりこくり、ひとり静かに涙を浮かべていた。

 真っ赤な夕焼けが空を覆っていた。あのときタカアキは、涙を見られたくなかったのだろう。献花を終えると11コーナーから離れ、ひとりコース上に座り込んでしまった。タカアキは何を思っていたのだろうか。そして、祥也に優勝を誓ったレースで2位に終わった。祥也の旗を持ってのパレードランでタカアキは何を思っていたのだろうか・・・そんな話を書こうと思っていたのだ。

 しかし、何も書けないまま2日が過ぎて、3日が過ぎた。もう、この写真のことは忘れて他のことを書こうと思っているうちに、オランダのアッセンで英国スーパーバイク選手権が始まり、さらに今週行われるアラゴンGPに向けて移動を開始しなければならなかった。サンマリノGPが行われたイタリア・ミサノから、オランダを経由してアラゴンGPの行われるアルカニスまでは、約4000kmの移動となる。その間、ああ、今日も何も書けなかったなあと思っていたのだ。

 サンマリノGPのモト2クラスの決勝が終わったとき、僕はカメラを持ってパルクフェルメを目指していた。そのときにタカアキは、11コーナーでマシンを止めて、手を合わせていた。そんなことがあったことを僕は後で知ることになるのだが、これが日本との時差の中で、締め切りに追われている者の限界だと思った。

 あのとき、力を出し切ったタカアキはパルクフェルメで精一杯の笑顔を浮かべようとしていた。会見場でタカアキは、「祥也ママから、優勝したら渡すねって言われていた旗を手渡してもらってすごく嬉しかった。優勝して祥也の旗を持ちたかった。でも、祥也の旗を持ってのパレードランは、なんだかジーンときました。11コーナーでマシンを止めて祥也に報告出来たことも良かった。表彰台でみんなが祥也の旗を持ってくれたことも嬉しかった」とも語った。

 そのときに、マシンを降りて、手を合わせるタカアキを想像することは出来なかった。それだけに、あの映像を見たときには、それ以上何を書けばいいのだろうと思ってしまったのだ。

 4000kmのドライブをしながら僕は考えていた。映像の力に圧倒されたレースだったが、パルクフェルメで「タカ」と声を掛けたときに見せた、この顔はあまりにも印象的だった。シャッターを押しながら、ファインダーが涙で曇った。「どのレースよりも力を出し切ったし、嬉しい2位です」とタカアキは語ったが、「どのレースよりも悔しい2位です・・・」という顔をしていたからだ。

 パソコンのデスクトップにこの写真を置いて10日目。やっと、タカアキのサンマリノGPのことを書くことが出来た。サンマリノからオランダを経てスペインへ。約4000kmの移動の旅も、あと1日。アラゴンGPを目前に、『GP_Circus』&『飛び魚日記』も、そろそろ再開である。(飛び魚=遠藤智)

 

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