「アニサキス」食中毒急増 新鮮な魚ほど寄生虫に要注意
【健康】
9月11日、神奈川県の40歳代男性がスーパーで購入したイナダの刺し身を食べて激しい腹痛を訴え、胃の中からアニサキスが発見された。14日にも、佐賀県の40歳代女性がサンマの刺し身を食べて腹痛と吐き気を発症し、同じくアニサキスが発見されている。
東京でもアニサキスによる食中毒は増えている。09年までは年間1、2件だったが、12年は22件に急増。ただ、病院で受診しない人も多く、国立感染症研究所によれば、アニサキスが原因の食中毒は1年間に2000~3000件は発生しているという。
寄生虫に関する著書が多数ある東京医科歯科大名誉教授で、人間総合科学大教授の藤田紘一郎氏は言う。
「アニサキスは、クジラやイルカの胃の中で成虫になる寄生虫です。産み落とされた卵はフンなどと一緒に海中に放出され、それを捕食したオキアミの体内で幼虫に発育します。そのオキアミをエサとして食べる魚を経由して、人間の口に入るのです。今年は猛暑の影響で海水温が高く、日本近海の海域の平均水温は平年を上回っています。海水温の上昇によって、オキアミの分布範囲や発生状況が変わり、アニサキスが増えた可能性もあります」
アニサキスは、サバ、サンマ、イワシ、サケ、スルメイカへの寄生が多く、アジやカツオへの寄生も確認されている。人間の胃や腸の中で暴れ回り、歯を突き立てて胃の粘膜に入り込む。激しい腹痛や嘔吐を起こすだけでなく、腸粘膜を突き破られ、腹水がたまって腸を切除しなければならなくなったケースもある。
「アニサキスが胃に入り込むと、多くは6時間ほどで激しい腹痛を起こします。噛み付かれた痛みよりもアレルギー反応によるものが多く、最初はこれといった症状が出ず、2度、3度と入り込まれたことで発症するケースが多い。内視鏡でアニサキスを取り除く治療が行われますが、腸にまで入り込まれると厄介です。腸閉塞を起こし、腸を切除しなければならなくなります」(藤田氏)
アニサキスは、肌色に近い透明のイトミミズに似た体長2~3センチほどの小さな寄生虫で、肉眼ではなかなか発見できない。よく噛んで、噛み切るのも難しいという。
「アニサキスは魚の内臓に寄生しています。不慣れな人が魚をさばくと、内臓を取り除く時にアニサキスが身の方へ移動してしまう。家庭などで魚をさばくとリスクが高くなります。しょうゆ、酢、わさび、しょうがなどでは死なないので、徹底するなら、加熱調理するか、マイナス20度で24時間冷凍したものを食べるしかありません」(藤田氏)
日本人は普段から魚介類を多く食べるうえ、冷凍技術や輸送方法が進歩したことで、都市部でも新鮮な魚を生食できるようになった。そのため、アニサキス以外の寄生虫も増えている。
「アユやシラウオの生食によって感染する横川吸虫、コイのあらいなどで感染する肝吸虫が増えています。いずれも少数では症状が出ませんが、大量に寄生している場合は、注意が必要です」(藤田氏)
横川吸虫は小腸の粘膜に寄生し、腹痛や下痢を起こす。肝吸虫は肝臓内の胆管に寄生して胆管炎を引き起こし、発熱、下痢、倦怠感などの症状から、最悪の場合、肝硬変に進行するケースもあるという。
新鮮な刺し身を肴にキュッと一杯。至福のひと時だが、なるべく避けた方が無難かもしれない。