■2004石田真敏
去る十一月十五、十六、十七日の三日間、山崎拓首相補佐官のお伴をして、上海、北京を訪問した。山崎先生の上海社会科学研究院での講演が主目的の訪中であったが、時期的に原子力潜水艦問題とチリで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、小泉首相と胡錦涛国家主席の日中首脳会議がセットされるかどうかの非常に微妙な時期となり、がぜん大きな注目を集める訪中となった。中国でも記者会見が行われ、十七日の帰国時には成田着二十二時にもかかわらず、山崎先生は空港から筑紫哲也氏のニュース番組に生出演のため放送局に直行された。
中国では、上海社会科学研究院での講演、さらに北京では、釣魚台国賓館での前駐日大使の武大偉外務次官との会談、武氏に戴秉国外務次官を交じえての懇談会、そして中南海での前外相の唐家国務委員との会談など、現在の日中間の最高レベルの外交交渉の場に同席し、大変貴重な体験をさせていただいた。また出発前には、王毅駐日中国大使との懇談会にも同席させていただいた。
現在、「政冷経熱」といわれる日中関係の大きな課題としては、靖国参拝、台湾海峡、東シナ海ガス油及び海洋調査船、そして原子力潜水艦、さらに日本の国連安保理常任理事国入りの各問題があるが、ここでは小泉首相による靖国参拝を、なぜこれ程までに中国側が問題にするのかについて、私なりに一連の会談も踏まえ述べてみる。
その背景として、第一に中国共産党は、日中戦争の勝利によって国民の信頼を得たため、その基盤は抗日闘争であり、その主張は日本国民を批判するのではなく戦争指導者としてのA級戦犯を批判している。それだけに、 国家を代表する首相がA級戦犯に手を合せる靖国参拝は、中国国内向けに説明がつかないようである。
第二には、現在中国では、党員・役人による汚職が大きな問題となり、同時に都会と農村の格差の拡大とも相まって、各地で暴動が多発しているようで、中国政府としては、反日運動が反政府運動に飛び火しかねないだけに、反日運動のきっかけとなる首相による靖国参拝は何としても阻止したいというところである。
第三には、来年は終戦から六十年、すなわち中国にとっては、反ファシスト勝利六十周年となり、昨年のように元旦から小泉首相の靖国参拝ということになれば、年明けから中国国内で大変な反日運動になると危倶しているようである。
一方、日本では「心ならずも戦場に赴いた人々に衷悼の誠をささげ、不戦の誓いのため参拝している」という小泉首相の説明が、素直に受け入れられ、中国側の要求は、まさしく不当な内政干渉ということになっている。
中国側も引けない、日本側も他国の干渉によって方針を変えられないというところで、平行線をたどっている。
しかし現在の日中関係は、地理的にも国力的にも、経済的関係からもお互いを無視して存在しえない状況にある。まさしく好きとか嫌いではなく平和的に安定的に相互理解を深めて、共存共栄の道を探ってゆくべきである。
それだけに、もし中国側が心から平和的共存共栄を求める気持ちで靖国参拝を問題とするならば、サッカー騒動時に指摘されたような反日教育などはまずやめ、新たな日本との関係について、国内外に明言すべきである。
戦後六十年、還暦を迎え新たな日中関係を築くべき時であり、この際両国が平和的共存共栄のため、お互いに一歩引く勇気をもつべきであると思う。
(2004石田真敏)
|