特集ワイド:福島原発の汚染水問題 「7年後」までの解決、処方箋は 空冷、堀で包囲、地下ダム
毎日新聞 2013年09月24日 東京夕刊
これでは7年後の東京五輪までの解決などおぼつかない。安倍晋三首相の「コントロール」発言にもかかわらず、福島第1原発の汚染水は海に流れ続け、いつ収束するか見通せない状況だ。政府はもっと広く知恵を募るべきではないのか。専門家に「処方箋」を尋ねた。【田村彰子】
京大原子炉実験所(大阪府熊取町)の今中哲二助教の研究室を訪ねると、ひっきりなしに電話が鳴っていた。安倍首相の「コントロール」発言について意見を求める取材が殺到しているのだ。「状況は何も進展していない。2年半前の事故発生直後に思っていたより、だらだらと後始末が続いている」とため息をつく。
今中助教は1986年のチェルノブイリ原発事故の調査に携わってきた。「旧ソ連は最悪の事態に備えて手を打っていた。例えば事故後すぐに原子炉の下を掘って配管を設置しました。溶けた核燃料が地下に漏れてくるようなら、冷却のための液体窒素を流そうと考えていたのです」と振り返る。
そのチェルノブイリと比較しても「福島の事故処理の方が圧倒的に難しい」と今中助教。原因は「水」だ。
「チェルノブイリは溶けた燃料1トン当たりの発熱量が福島第1の半分以下だったうえ、爆発で遮蔽(しゃへい)用の砂と混じり合ったこともあって事故後の早い時期に燃料が空冷で固まり、水で冷やし続ける必要がなかった。原子炉の下につながる廊下があったために、空気の流れができたことも幸いしたようです。地下水が建屋にどんどん入り込む状況でもありませんでした」
実際、高濃度汚染水がたまったトレンチ(配管用地下トンネル)からの漏水によるとみられる地下水汚染、さらに汚染水貯蔵タンク自体からの漏水……その都度処理に追われる東電の作業は果てしがないようにみえる。
だが、原子力コンサルタントの佐藤暁さんは「もう少し全体を見回して抜本的な作業をすれば改善できることは多い」と話す。米ゼネラル・エレクトリック社の外国法人で原発の設計や検査に18年間携わり、福島第1原発でも作業経験のある佐藤さんは、打開策として核燃料に水が触れないシステムを挙げる。現在は溶けて固化した核燃料が原子炉圧力容器の中にあり、水をかけて熱を取っているが、「そろそろ空気で冷やす方法にすべきだ」と言うのだ。
佐藤さんによると、圧力容器を内蔵した格納容器の外面と、さらにその外側を覆うコンクリートの間には下から上まで隙間(すきま)がある。そこでコンクリートの上部に穴を開け、風を流すことで空冷にする方法を提案する。