低予算だけど実力はすごい? チームぶら防が旧校舎で見たものとは
「電磁気による予知の研究は、実際に観測装置を見ていただくこともできますよ」長尾教授の温かい言葉に甘えて、ぜひそれを拝見したい、とお願いすると、
「ちょっとここから離れた場所なので、車で移動しましょうか」と長尾教授。
え、他の場所にそんな最先端の観測設備があるんですか
目を輝かせて移動を始めたチームぶら防。だが、長尾教授の車について走ること約5分。先導する車がすべりこんでいった建物を見て、一同から「?」の声にならない声があがった。
そこは、どうみても現在は使われていない、いわゆる「学校の怪談」に出てきそうな旧校舎だったのだ。
「これが、私たちの観測設備です。あ、床にコードがはっているから気をつけて!」
長尾教授が見せてくれたのは、古い教壇のまわりに並べられた、ラジオのチューナーと、最新式とは言えないパソコンなど数台の機械がつながったもの。インタビュー会場の研究室より、さらに手作り感満載の設備だ。
「これで、何を測っているんですか……?」
渡辺氏が面食らったように尋ねる。
「これは、ちょうど仙台から飛んでくるFMラジオの電波をとらえようとしている装置です。もちろん、普段は仙台のラジオがここ静岡で聞こえることはありません。ところが、大地震の前には、なぜか遠くのラジオが聞こえるはずのない場所でも聞こえるようになる、という現象が起こるんです」
こうした現象は、電気通信大学の早川正士教授らが中心となって研究が進められている。
原理はまだ解明されていないが、考えられている仮説はある。岩石が圧力で破壊される際には、岩石を構成する分子のなかの電子が圧力によって移動させられ、一時的に岩石内で電流が発生する。
大地震の前に岩盤があちこちで破壊され始め、電流が多数流れるようになると、電流のまわりに発生した磁場が上空の電磁場に影響し、ラジオの電波を反射するような層が形成される。
それによって、本来は聞こえないはずの仙台のFM放送が静岡にまで届くようになるのだという。
「ラジオに限らず、地震の前に起きる直前のこうした電磁気的な異常から地震の予測を行ったところ、統計的には明らかに有意だという結果が出ているのです。このことは、内閣府の南海トラフWGの分科会の報告書でもはっきりと書かれました」
この技術によって、地震予知の要素のうちの「いつ」が補完されるのだ。
長尾教授が案内してくれた旧校舎の屋上には、2mほどのアンテナが数本並んでいた。間近に立つとさすがに存在感があるが、遠目には一般家屋の上に取り付けられたテレビのアンテナの印象とそう変わるものではないだろう。
「アメリカでは、すでにこうした新しい方法を使って、実際に地震を予知してみようという試みが始まっています。
ただ、先ほども言いましたが、大切なのは地震の予知ができようができまいが、被害を少なくすることができる社会づくりだと私は思います。
地震予知は“夢の技術”であると同時に、まだまだ手さぐり状態の過渡期的な技術でもある。そこに政治的な思惑や、社会的な責任がのしかかるので、ますます身動きがとりにくくなっているのは事実です。
それでも、東日本大震災が起こり、次の南海トラフ巨大地震が近々やってくると考えられているいまだからこそ、やるべきことがある。私はもし、独自に、大地震の前兆だと思われる成果が出た場合は、自分で責任を負って、それを社会にむかって発信しようと思っています。
残念ながら、現在の日本の態勢では公の支えはありませんが、科学者としてできることはしなければならない。そんな気持ちで、日々研究をつづけているんです」
屋上の気持ちのいいひらけた空間で、笑顔でそう語る長尾教授。だがその心中には大きな決意があるようだった。
大震法の制定から約40年、これまで莫大な研究予算を使ってきたという批難もある地震予知研究だが、実態はそのイメージとは程遠い地道で手さぐりのものだった。
「長尾先生たちに、もっと予算をつけるのか、それとも気象庁のあの観測態勢さえも縮小していってしまうのか。
これはもう、国の思惑がどちらに向いているかを確認するしかないよ、水原くん。この“地震予知”シリーズ、最後はやはり内閣府に斬りこむしかない。最終回は僕が自ら、内閣府に乗り込もう!」
この国の地震との向き合い方を問う今回の旅も、いよいよ最終盤。今後の展開に乞うご期待!