一長一短の最新地震予知法、組み合わせて使うのが大事
東日本大震災の際に得られたデータを活かし、いま前進しつつあるという地震予知研究。そこにはどんな研究があるのか。
「ひとつには、GPSによる観測。東北地方の地殻の動きが、3・11の直前に変わったことを観測していた研究者もいます。
また、GPS衛星から地上に届く電波の速さを計測して、震源地の上空に漂う電子の分布が変化したことを突き止めた研究者もいる。北海道大学の日置幸介先生たちの研究です」
さまざまな成果があるが、長尾教授ら東海大学の研究チームが行っている研究でも、地震の前兆と思われる現象がとらえられたという。
「私たちは、『地下天気図』というのを作っています。地震の観測というと、何か大きな出来事があったときだけ地中の様子を見てしまいがちなのですが、自然現象を観察する態度としてはそれだけでは不十分です。
天気予報というのは、毎日空の状態を説明して、『いまこうなっていますよ。だから来週はこんな天気になりやすいでしょう』と概況を見ていきますよね。それと同じように、普段から地下の様子を見ていこうという取り組みをしています」
具体的には、何を観測しているのか。
「これは、地震活動のゆらぎをとらえたものです。単純化して言えば、エリアごとに、いつもは平均してどれくらいの地震活動があるかを計算する。
その値と、直近の期間で地震が起きた頻度を見比べると、平均より地震が多く起きていたり、少なくなっていたりすることがわかります」
阪神・淡路大震災以降に整備された、細かい地震も高い精度でとらえる防災科学技術研究所のHi-netというシステムを利用してはじめて、この地下天気図を描き出すことができたのだという。
「東日本大震災の際も、日本の太平洋側では広範囲にわたって地震の頻度が落ちる、『静穏化』が起きました。とくに地震発生1週間前からの静穏化の広がりは非常に明瞭だった。
3・11のあと、私たちはそれがどうしてああいう形での静穏化になっていったのかを研究し、次の大地震に備えようとしています」
うーん、と“防災の鬼”渡辺氏はうなる。
「それでも、まだ『このエリアでそろそろ地震がきそうだぞ』とまでしかわかりませんよね? 予知の3つの要素のうちの、『どこで』まではわかりますが、『いつ』『どれくらいの』という部分はどうなりますか?」
長尾教授はそのツッコミに、我が意を得たりという笑顔で答えた。
「おっしゃる通りです。ですから、そこに今度は、電磁気を使った研究を組み合わせます。『このエリアが危なさそうだ』というバックグラウンドの情報が地下天気図。さらにそこに他の方法を組み合わせていく。
たったひとつの方法で、完璧な地震予知ができる、なんていうものはまず、眉唾だと私は思っています」
なるほど、と渡辺氏は膝を打った。では、電磁気を使った研究とは、どのようなものなのだろうか?