衝撃発言「予知は20年後にはいらない技術かもしれない」
“防災の鬼”渡辺氏は、あらためて問うた。
「先生たちの出した報告書をもとに、あの内閣府の南海トラフWGの最終報告書が書かれたわけですよね。ここまでの取材でも、『予知ができない』と書いているわけではない、と専門家は口を揃えて言います。しかし、一般の人の受け止めはそうではない。
『ああ結局、地震予知なんて無理だったんだな』『もうやめればいいのに』という風にとらえてしまった人も多いようですね。これにはもちろん、あの最終報告書について伝えたマスコミの報道姿勢の問題もあったとは思いますが、先生ご自身は、この世間の反応をどう見ていますか」
すると、長尾教授は意外な話をしてくれた。
「地震予知は、できるにこしたことはありませんが、実はもともと防災とは直接、関係はないんですよ。というのも、地震が来ることがわかったとしても、それを止めることはできないからです。
私たちの大学があるここ静岡県も、東海地震を前提にした大震法の強化地域に指定されているとは言っても、防災対策としては地震予知をあてにしてきたわけではない。むしろ予知なし、予知が外れた、という場合でもやってこられるようにしてきた。
それは極めて正しい姿勢だと思います。建物の耐震化を進めて、壊れにくい街をつくる。そのことの重要性は、予知ができようができまいが、変わりません。
東日本大震災で、防災研究の重要性というのが、再び強く認識された。政治的には是非さまざまな意見もあるでしょうが、国土強靭化だといって、現政権などは公共施設や橋りょうなどを強くすると言っている。とにもかくにも、それを進めてもらえば、人の命はしっかり守られる。
ですから、せっかく“夢の技術”と言ってくださっていますけれども、私は20年後には、ひょっとしたら地震予知はもう『いらない技術』になっているかもしれないと思っているくらいなんですよ。
地震がいつきても困らない街、いつきても対応できる市民の意識。そういうものがしっかり築き上げられていれば、予知はますます必要ではなくなるはずなんです」
渡辺氏も、まさにその通りとうなづく。それでも、地震の前に予知ができたら、いいことはありますよね? ビルの窓ガラスの掃除を延期したり、新幹線を徐行させたり、できることはいろいろあるんじゃないですか?
水原が食い下がると、長尾教授は朗らかに答えた。
「もちろん。繰り返しますが、予知ができるにこしたことはないんです。だからこそ、私たちも研究を重ねているんですよ」
じゃあ、いまどこまでこの研究が進んでいるのか、ご説明しましょう。そう言って長尾教授は唯一の大画面モニタの電源を入れ、プレゼンテーション資料を画面に映し出した。
いよいよ、地震予知研究の最先端が明らかになる!?