「困難」だが、「不可能」ではない!
「はじめまして。業界では有名な渡辺さんに、いままでお会いしたことがなかったのは、思えば不思議ですね」
研究室に招き入れてくれた長尾教授はにこやかにそう言った。
研究室には無数のパソコンのモニタが並ぶ。だがチームぶら防が部屋に入ったとき、画面の電源が入っているものはなかった。“地震予知シリーズ”第1回で訪れた気象庁地震火山現業室のように、巨大なモニタが掲げられているわけでもない。
取材日が夏休み期間中だったこともあるが、それにしても静かだ。研究室の奥から助手の男性が出てきて、お茶を淹れてくれた。
地震予知研究の最前線、とは言っても、どこか手作り感の漂う研究室内。気象庁とは、だいぶ趣が違いますね、と水原が訊ねると、
「地震予知の研究をしていました、と言っても、就職の口もない。決して学生に人気のある分野とは言えませんよ」と、長尾教授はしみじみと語りだした。
「学界のなかには、『地震予知の研究は、東海地震の予知を目指した大震法の威光をかさにきて、国から研究費を山のようにもらってきた。それなのに、結局何もできていない。あれは無駄な研究費だったのだ』と攻撃してくる人たちもいます。
彼らは、国が地震の研究に割いている予算、具体的には文部科学省の地震・防災研究課の予算を見て批判をしている。たしかに同課の地震調査に関する予算は、年間200億円程度あります。
しかし、実際にはそのなかで『予知』の名前のつく研究の予算は年間4億円。さらに、私たちが行っているような短期直前予知の研究にあてられているのは年間1700万円です。
これを複数の研究室で分け合っていますから、実際に私たちが使えるのは一番多いところでも年間200万〜300万円。これでは観測機材などを揃えるのもやっとで、人も雇えない。そもそも研究室の数だって限られているから、研究者になっても大学のポストがない。
いまの学生たちはそういうことに敏感ですから、若くて優秀な人材の確保が本当に難しいんですよ。
地震の短期直前予知の研究をしている研究者の高齢化も進んでいる。私もあと数年で定年ですが、いま一番、積極的に活動している研究者は、だいたい『日本沈没』が流行したり、東海地震説が出て、これから地震予知が面白そうだと思えた’70年代に学生だった世代です。
みんなもうすぐ60代でリタイアせざるを得ないけれども、40代くらいの有望な研究者はポツポツとしかいない。さらに研究者の卵となると、現状はさらに厳しいですね」
いきなり、地震予知研究の直面している“現実”を目の当たりにしたチームぶら防。はたして“夢の技術”の行く末は大丈夫なのか!?