仕置屋総決算

 

中村主水(藤田まこと)

 今回の主水は元締兼仕置人って役どころ。組織が貧弱なので、なんか中小企業の経営者という感じもする。特筆すべきは仕置をやらない回がずいぶんあること(#5#11#13#14#19#22)。あまり主役を張るという設定じゃなかったのかな。ビリングも”起こし”だし・・・・・・・藤田御大に言わせれば、あたしゃコメディアン出身だし、まだ十分他のキャストに気を遣っています(ココんとこ主水口調)といったところか。
 それから同僚・上役は俺に任せろとばかりに、大量に仕置している。まったく悪徳サラリーマンの鑑である。大立ち回りはそれほど見せてくれない。基本的に相手の意表を突いてのセコ突き。#19#25で見せる重い表情演技がスゴイ。

市松(沖雅也)

 棺桶の錠は沖縄出身という設定が後半、生かし切れなかった。アクション中心の役柄だったが、今回の市松は出色の出来映え。沖さんの芸歴でも最高という声が高い。

 非情さとヘンな潔癖さが魅力だ。#2でその素性が語られるが、親の仇でもある殺し屋組織の長・鳶辰(津川雅彦に育てられたという設定だった。自らの手でその鳶辰を仕置してからは、主水グループの助っ人的存在であると同時に一匹狼の殺し屋としての顔を持つというキャラクターとして活躍。また#12では、殺し屋の父と旅をした幼き日々、そしてそのとき知り合った盗賊の娘との出会いと訣れが描かれる。この役柄は池波正太郎の大江戸暗黒街シリーズに出てきても、不思議ではないキャラクターだが、脚本演出もそんな雰囲気を意識してよく出していた。表稼業は竹細工師、水芸の配管施工などなかなか器用なところもあるようだ(#17)。

 求められれば義務的に応じるが、女性に関心を持っている様子はあまりない。
 常に彼の脳裏にあるのは、死んだ父親(沖雅也二役)の姿であり、そのためか、主水にことさらに食ってかかったり、意識的無意識的に父親を求めるような言動を見せることがある。まあ、男版のファザコンとでも言えるかもしれない。身寄りのない子供の父親になろうとしたこともあるが、裏稼業が受け継がれる残酷な宿命を知らされて、断念せざるを得なかった(#10)。

 いつ死んでもおかしくない自分の稼業を常に意識し、その宿命を甘んじて受け入れる男(このあたりJ・Pメルビルの「サムライ」みたいなところがある)だったが、最終回はなぜか生き延びる。定廻り同心の栄職を棒に振った主水ならずとも、スタッフにこのキャラクターは殺すには惜しい、再登場させようという意識があったかもしれない。

 ワーカホリック的に仕置をこなすが、#19では全覚(佐藤慶)の気迫に圧倒され、仕事をキャンセル。

印玄(新克利)

 寺を持たない勧進坊主印玄はコメディリリーフ的な役回りと、それとは裏腹な悲惨極まる過去(#13参照)とで必殺ファンに印象が深いだろう。このキャラクターを主役に据えた話がもっと欲しかった。負ったトラウマのため、明るく振る舞ってはいても、精神的なウイークポイントを抱えており、躁鬱症(というより精神分裂症か?)の気がある。

 捨三とは昔からの友達らしい。市松とはそりが合わないようだったが、最終回では市松の裏切りを危惧する主水に必死に抗弁した(なかなかイイ奴だ)。さらにおこうが人質に取られて動けない主水に代わって、敵の一味に殴り込む。そして市松の目の前で「見事な最期だった・・・」と言われる死に様を見せた。全員駆け寄って号泣どころか、道端でのたれ死というのが初期必殺のハードな世界観を示していて秀逸。

 殺し技はご存じ、屋根落とし(ときには人体二つ折りなども見せる)。前期必殺力技にコミックな要素も加えてユニークな殺し技。極悪人が死ぬ間際に笑いのプレゼントというのは素晴らしい!最近の汚職役人・銀行家、ヒ素夫婦などの醜悪さを見ると、中野サンプラザの屋上あたりから豪快に仕置して欲しくなる。

捨三(渡辺篤史)

 捨三は情報屋としては、超一流。主水には恩義があるらしく、全編走り回ったり、縁の下に潜ったりの献身ぶり。こんくらい働いてくれりゃあ、分け前も笑って出せるっていうもんだろう。印玄、捨三、市松は当初それほど仲が良くなかったが、回が進むにつれて同年輩の気安さで気心が知れたのだろうか。三人揃って主水に造反という場面も見せる(#17)。

 「必殺仕業人」にも捨三役で続いて出演しているが、200回記念作「あんたこの替え玉をどう思う」では、夏純子の幼なじみというちょっと嬉しい役どころだった。

おこう(中村玉緒)

 髪結いで仕置の仲介役。強欲でしたたかなところもある。実は主水には思慕を寄せていたという設定。演じる中村玉緒さんは、勝プロ制作「夫婦旅日記さらば浪人」で藤田まことと夫婦役で再び共演している。楽屋オチと見ると、勝新の悪ふざけという感じがして面白い。

 最終回で観世栄夫、沼田曜一、大林丈史というこわ〜い面々に捕まって、ひたすら竹竿でブッ叩く体育会系拷問を受け絶命。この人達も女性に興味がなさそうな感じだ。

三隅研次監督

 #13「一筆啓上過去が見えた」は監督の遺作である。前後の事情は四谷ラウンド刊「剣 三隅研次の妖艶なる映像美」(野沢一馬著)に詳しい。中村主水育ての親のひとり。

ソフト発売状況ほか

 関西や九州方面ではわりと再放送に恵まれたようだ。LDボックスが限定品で発売されたが、絶版。現在手に入るのはユーメックスレーベルから発売されているLD「必殺仕置屋稼業傑作選」。このLDには、#1#2#20#28を収録。他にも松竹ビデオで、一話と最終話が見られる。

 CSチャンネルの松竹ホームドラマチャンネル開局時に全話放送されたが、そろそろフィルムが退色しかけている。

音楽

 平尾昌晃&竜崎孝路の必殺サウンド全開。市松が亡き父親を思うシーンにかかる叙情的な女声コーラス、出陣のテーマ、そして殺しのテナーサックスと変化に富んだ曲の数々は大いに聴かせる。

 スターチャイルド必殺シリーズオリジナルサウンドトラック全集6(KICA3006)に劇伴、主題歌ともに収録。殺しのテーマのサックスが聴かせる。主題歌「哀愁」を歌う葵三音子(#24にゲスト出演)は、ほかに三船プロ「江戸の鷹」の主題歌なども歌っている。しっとりと京風演歌(意味不明)の風情を漂わせるメロディーとアレンジ。

 先日高円寺に出たら、「哀愁」のシングルを中古レコード店で見かけた。ジャケットの仕置屋メンバー写真はワンポイント扱いなので、ちょっと買いそびれた。

悪役決算

 長谷川明男が二回も仕置されている。#9は主水と殺陣、#24は印玄に屋根落としと、ご苦労さんなことである。
 中尾彬、寺田農の色悪(#3、#25)、今井健二の悪徳同心(#7)、山本麟一の悪徳十手持ち(#26)というのは”お約束”のキャスティングという感もある。#19の佐藤慶は悪役って言えないかも。

 あと目立つのは波田久夫が三回出演していること。#10はえっちな主水の同僚。#19は主水の剣の師匠。#27は悪徳徒目付役で全部殺られ役。ギョロ目が特徴の渋い役者さんだ。

 最強悪役は#2の津川雅彦でしょう。印玄に鐘楼から落とされて、主水に真っ二つにされ、しまいには市松の血を吸う折り鶴にやられて絶命(笑)。次点で#8の織本順吉。#22、蟹江敬三の手裏剣使いというのも珍しい。女優では#24の荒砂ゆきか。仕置される役ではないが、#25で市原悦子が女の性をジトジト演じて、背筋に悪寒が走るものがあった。

ベストエピソード

 やっぱりその#2「一筆啓上罠が見えた」でしょう。ダントツ。鬼才松本明監督の才能が爆発している。

 他に挙げるとしたら、#1「一筆啓上地獄が見えた」#5「一筆啓上幽鬼が見えた」#13「一筆啓上過去が見えた」#19「一筆啓上業苦が見えた」あたりかなあ・・・・・
 #4「一筆啓上仕掛けが見えた」#12「一筆啓上魔性が見えた」#22「一筆啓上狂言が見えた」#24「一筆啓上血縁が見えた」#25「一筆啓上不倫が見えた」なんかも、暗くてしぶい内容だった。

 以上の文章、それに下の☆マークは、あくまで拙僧の独断と偏見ですので・・・・
 それから記述に間違いなどありましたら、ひらにご容赦、メールでお知らせ頂けると有り難いです。m(-_-)m。

 

 

1 「一筆啓上地獄が見えた」 ☆☆☆☆ ムーミンパパ、工藤明子、浜田晃
2 「一筆啓上罠が見えた」 ☆☆☆☆☆ グランパパ、石山律、今出川西紀
3 「一筆啓上紐が見えた」 ☆☆☆ 中尾彬、江幡高志、上原ゆかり
4 「一筆啓上仕掛が見えた」 ☆☆☆☆ 山本学、大滝秀治、竹下景子
5 「一筆啓上幽鬼が見えた」 ☆☆☆ 三条泰子、川合伸旺、二宮さよ子
6 「一筆啓上怨霊が見えた」 和田浩治、原田清人、堺左千夫
7 一筆啓上邪心が見えた ☆☆ 今井健二、河原崎次郎
8 一筆啓上正体が見えた ☆☆☆ 織本順吉、藤岡重慶、吉行和子
9 「一筆啓上偽善が見えた」 長谷川明男、寺田農
10 「一筆啓上姦計が見えた」 ☆☆☆☆ 伊藤孝雄、弓恵子、横内正
11 「一筆啓上悪用が見えた」 大木実、柳沢真一、鶴田忍
12 「一筆啓上魔性が見えた」 ☆☆☆ 岸田森、中川梨絵
13 「一筆啓上過去が見えた」 ☆☆☆☆ 遠藤太津朗、武原英子
14 「一筆啓上不義が見えた」 米倉斉加年、佐々木剛
15 「一筆啓上欺瞞が見えた」 ☆☆ 綿引洪、山田五十鈴
16 「一筆啓上無法が見えた」 ☆☆☆ 菅貫太郎、穂積隆信
17 「一筆啓上裏芸が見えた」 ☆☆ 上野山功一、浜田寅彦
18 「一筆啓上不実が見えた」 ☆☆☆ 石橋蓮司、横山リエ
19 「一筆啓上業苦が見えた」 ☆☆☆☆☆ 佐藤慶、波田久夫、石橋雅史
20 「一筆啓上手練が見えた」 ☆☆☆☆ 北村英三、中村敦夫
21 「一筆啓上迷夢が見えた」 ☆☆☆ 内田勝正、稲野和子、神田隆
22 「一筆啓上狂言が見えた」 ☆☆☆ 蟹江敬三、稲葉義男、大関優子
23 「一筆啓上墓穴が見えた」 戸浦六宏、吉沢京子、山本紀彦
24 「一筆啓上血縁が見えた」 ☆☆☆ 荒砂ゆき、長谷川明男
25 「一筆啓上不倫が見えた」 ☆☆☆ 寺田農、市原悦子
26 「一筆啓上脅迫が見えた」 山本麟一、志摩みずえ
27 「一筆啓上大奥が見えた」 ☆☆ 佐藤京一、本阿弥周子
28 「一筆啓上崩壊が見えた」 ☆☆☆ 沼田曜一、観世栄夫

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