映画:賛否両論「風立ちぬ」 「感動」×「違和感」 キーワードは「ピラミッド」
毎日新聞 2013年08月21日 東京夕刊
評論家の岡田斗司夫さん(55)は、この問答を映画のキーポイントに挙げる。
「二郎は美しいものにしか興味がない。発注した飛行機の部品が二郎に届く場面がありますが、実は部品を包んでいるのが日中戦争拡大を伝える新聞なんです。でも二郎は目もくれずガッと包みを開いて部品に見入る。こうした犠牲の上に部品が作られていることには思いをはせない。戦争の現実に関心がないんです。なぜならピラミッドのある世界を選んだから」
ピラミッドとは何か。「美しさの象徴です。ただし、それは権力者が貧しい民衆から収奪して生み出したもの。逆にピラミッドのない世界は貧富の差も、犠牲もなく皆が仲良く暮らす世界ですが、そこからは美しいものは生まれない。そのどちらを選ぶか、というのがあの問いの意味です」
岡田さんによると、こうした「思想」がにじむシーンは他にもあるという。「例えば序盤で二郎が近所の少年たちとけんかする場面。少年たちが醜く描かれ、セリフも何を言っているか分からない。彼らに興味がないからです」。とすると……。「つまり宮崎監督も二郎同様、ピラミッドのない世界はイヤだ、と言っているんですよ」
何だかドライ、世間が抱く宮崎監督のイメージとかけ離れた「思想」ではないか。
「そうでしょうか」と岡田さん。「我々も程度の差こそあれ二郎や宮崎監督と同じです。例えば恋愛にはまって生活を顧みない。野球に打ち込んで成績が下がる。何かに夢中になると何かを犠牲にして生きているじゃないですか。実にリアルな映画です」
もう一度、映画を見た。いろんな指摘が当てはまるようでもあり、当てはまらないようでもある。実は宮崎監督、最初から観客の賛否両論を巻き起こすつもりで映画を作ったのではないかとすら思える。
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