映画:賛否両論「風立ちぬ」 「感動」×「違和感」 キーワードは「ピラミッド」
毎日新聞 2013年08月21日 東京夕刊
「感動した」「よく分からない」−−。スタジオジブリの宮崎駿監督(72)最新作「風立ちぬ」への評価が割れている。旧日本軍の戦闘機「ゼロ戦」を設計した故堀越二郎氏の青春をフィクションを交えて描き、7月20日の公開以来の観客動員数は450万人、4週間連続の1位と期待通りの大ヒット。にもかかわらず、である。この映画、どう見ればいいのだろうか。【吉井理記】
物語は少年時代から「美しい飛行機」に憧れる二郎が三菱内燃機(三菱重工の前身)に入社し、戦闘機の設計に打ち込む姿と、結核を病むヒロイン・菜穂子との出会いと別れを描く。折々に、イタリアの著名な飛行機設計士・カプローニと語り合う二郎の「夢」が挟み込まれる。
私も見た。126分の上映時間が過ぎ、エンドマークが出る。沈黙。周囲の観客はささやきすら交わさず、おもむろに帰り支度を始める。
そう、感想を言葉にしようにも、言葉にならないのだ。「宮崎監督は何を訴えたかったのだろう」。素朴な疑問がいつまでも消えない。
作家の東浩紀さん(42)はツイッターで「戦争産業に従事したり恋人が結核で苦しんでいたりするのに主人公の葛藤がなく、共感しがたい」とつぶやき、コラムニストの中森明夫さん(53)も「主人公の手前勝手なナルシシズム」とバッサリ。政治学者の藤原帰一さん(57)は本紙映画評で「戦争の現実を切り離して飛行機の美しさだけに惑溺する姿」に違和感を示した。激しい戦闘場面がないことから、韓国でも「戦争を美化している」と批判の声が上がった。
鈴木敏夫プロデューサー(65)がパンフレットに「戦闘機が大好きで、戦争が大嫌い。宮崎駿は矛盾の人である」と書いた通り、宮崎監督は「兵器オタク」「飛行機オタク」でもある。メディアジャーナリストの渡辺真由子さん(38)は「宮崎監督のエゴの押しつけという印象を持ち、違和感と後味の悪さが残りました」と辛辣(しんらつ)だ。「戦争を肯定する映画ではありませんが」と前置きしつつも「銃や兵器は権力の象徴、破壊や暴力をもたらすものです。二郎はそんな戦闘機の開発に夢を見る。それを描くことに反対ではありませんが、二郎の苦悩を描ききれていないようで疑問を感じます」と手厳しい。