先日、首都圏のある地方自治体の幹部公務員が記者を訪ねてきた。この公務員は「中国は東北工程(高句麗・渤海史を中国史に組み込もうとするプロジェクト)によって高句麗と渤海を自分たちの歴史と主張している。これは非常に恐ろしいことだが、それよりもっと恐ろしいのがわが国(韓国)の歴史教育だ」と訴えた。公務員の妻は中学校で歴史の教師をしているそうだが、ある日小学生の息子に買い与えた子ども用の歴史読み物の本がどうもおかしいと言うのだ。その妻は「本の表紙には李明博(イ・ミョンバク)前大統領の写真が掲載されているが、その顔の下には『独裁打倒』と書かれたプラカードを掲げる大学生のイラストが描かれていた。李前大統領が独裁者であることをひそかに教え込むために編集されたと感じた」と話していたという。この公務員は韓国の近現代史に対する見方が妻と異なるため、いつも意見が衝突しているそうだが、今回の件に関しては「北朝鮮の独裁政権よりも、韓国の歴代大統領の方がもっと悪人だと考える子どもたちが増えている」と心配そうな表情で語った。
話を聞いた直後、この公務員の家庭は特別なケースだと思ったが、その日の午後にある国立大学付属の博物館長と電話で話した際、決してそうではないとの思いが頭をよぎった。朝鮮日報社の子ども用教育紙面「新聞は先生」の歴史コーナーに、この博物館の展示品の写真を掲載したいと伝えたところ、館長から「子どもの歴史教育に活用されることは知っているが、今回の件に関してはお断りしたい」とはっきり言われた。理由を尋ねると館長は「教学社の歴史教科書関連の報道から推測すると、あなた方の新聞社は子どもたちに正しい歴史認識を伝えられないと思われるからだ」と強い口調で語った。
館長は「教学社の歴史教科書は大韓民国のアイデンティティーに傷を付け、事実関係を正しく伝えていないので、この世に存在してはならないものだ」とも主張し、さらに「今この電話での取材内容が全て国家情報院に報告されることも知っている」とも話した。大学で歴史を教える教授でもある博物館長の言葉とは到底信じられなかった。館長は「歴史認識とは関係ないかもしれないが、教育においてはいかなる形であれ歴史認識が前面に出されるべきではない」とも訴えていた。しかし記者は館長の言葉と行動の方がむしろ非常に偏った歴史認識の表れと感じた。大学にあらためて要請すれば、写真の掲載は可能だったかもしれないが、一連のやりとりから韓国における歴史教育の実態をうかがい知ることができ、非常に後味が悪かった。
韓国史が大学修学能力試験(日本のセンター試験に相当)の必須科目に採択されたとのニュースが報じられると、子ども用の歴史関連書籍が次々と新たに登場するようになった。そのため問題となった歴史教科書はもちろんだが、今後は普段から子どもたちが手にする歴史漫画や単行本の内容にも問題がないか、必ずチェックしなければならないだろう。ただしこれらの本は読むだけで偏向を確認できるので、まだ幸いかもしれない。
問題は学校で教師が教える歴史の授業内容だ。これに関しては外部からバランスが取れているかを確認するのが難しいからだ。韓国史に対する児童生徒の関心は徐々に高まっているが、彼らに歴史を教える先生の歴史観が一方に偏っているとすれば、子どもたちの歴史認識もやはりおかしくなる可能性が高い。先日教育部(省に相当)は教員の新規採用の際、韓国史能力検定試験で3級以上を採用の必要要件にすることを決めたが、これだけで学校における歴史教育のバランスを取れるかは疑問だ。偏った歴史観による社会の分裂や葛藤は、歴史の歪曲(わいきょく)をもくろむ中国や日本が望む韓国の未来の姿かもしれないのだ。