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独身女性の「卵子凍結保存」に賛否 専門家に見解を聞く

産経新聞 9月24日(火)8時0分配信

独身女性の「卵子凍結保存」に賛否 専門家に見解を聞く

不妊治療を行う諏訪マタニティークリニックの根津八紘院長(左)と生殖工学博士で、卵子の凍結保存に取り組む桑山正成氏(右)(写真:産経新聞)

 日本生殖医学会は、将来の妊娠に備えて、健康な独身女性の卵子の凍結保存を容認する指針案を公表した。晩婚化が進み、高齢出産が増えたことを踏まえた対応だ。出産時期を個人の事情で選択できる一方、高齢出産を助長しかねないとの意見もある。生殖工学博士で、卵子の凍結保存に取り組む「リプロサポートメディカルリサーチセンター」の桑山正成代表(51)と、不妊治療を行う諏訪マタニティークリニックの根津八紘院長(71)に見解を聞いた。

 ■桑山正成氏「不妊の苦しみが減る」

 −−独身女性の卵子の凍結保存についてどう考えるか

 「卵子の凍結保存は予防医療だ。将来の自分のために、血液や皮膚などを保存しておくことと同じ。自分の細胞の一部を自分のリスクで、保存しておくだけだ。海外では、独身女性の卵子凍結保存は、本人の権利として尊重され、広がっている」

 −−メリットは何か

 「日本では、働く女性が妊娠適齢期に出産しやすい社会構造になっていない。出産を機に積み上げてきたキャリアが失われてしまう女性も多い。卵子を凍結保存しておけば、自分で出産の時期を選択することができる。高齢の妊娠や不妊治療はいろいろなリスクが高まる。だが、34歳までの若い卵子なら染色体異常による流産のリスクが35歳以上に比べて低いし、妊娠しやすい。不妊治療の現場では40歳前後でなかなか出産につながらず、苦しんでいる人が数多くいる。若い卵子があれば、不妊治療をするときに出産の可能性が高まり、選択肢が増える」

 −−技術的な問題はないのか

 「私たちの施設では、凍結卵子による出産率が10%程度だ。10個の卵子があれば1個は出産につながる。これは、新鮮な卵子を使って体外受精を行ったときの出産率と全く同じだ。私たちの施設では、卵子の凍結保存に技術上の問題はない。しかし、一般的には困難な技術であり、日本には高い確率で出産につながる技術を有した施設が極めて少ない」

 −−実施施設は登録制も検討されている

 「施設の基準は必要だ。保存結果の実績が盛り込まれないと、解凍時に卵子が壊れているなど不幸な事例が多数発生するリスクがある。科学的根拠やデータがある施設に限定すべきだ」

 −−採卵時に出血などのリスクも指摘されている

 「採卵は不妊治療で日常的に行われているもので新たな問題があるわけではない。私たちは、白血病など出血に特別な配慮が必要な血液がん患者の卵子凍結保存を臨床研究で250例以上行ってきたが事故はなかった。凍結保存のための採卵だからリスクが高いということはない」

 −−高齢出産が助長される、との懸念もある

 「高齢出産と卵子の凍結保存は全く別の問題。技術の使い方を間違えたらそうなるという話。指針案でも採取時の年齢は40歳以上は推奨しない、保存した卵子の使用時の年齢は45歳以上は推奨できない、としている。女性が仕事やパートナーの事情に合わせて妊娠・出産を決断し、自分のリスクを正しく理解して、卵子をいつ戻すのか決めればよいだけだ」(油原聡子)

 ■根津八紘氏「営利ではない体制を」

 −−平成14年から9年間、卵子の凍結保存を実施していたが、なぜ中止したのか

 「始めた当初は、働く女性で子供をすぐに作れない人に対し、若いうちに卵子を保存し、仕事が一段落したところで出産してもらうことを想定していた。女性が仕事を続ける上での妊娠・出産・育児によるハンディを少しでも軽減できればという意図だった。ところがスタートしてみると、若く健康な卵子を確保するため原則35歳以下が望ましいと明記していたにもかかわらず、来院するのはそれ以上の年齢の人ばかり。30代後半にならないと、危機感を覚えないためだ。9年間で凍結保存を実施した26人中20人が35歳以上で、うち11人は40歳以上だった。結局、採卵保管後に体外受精を試みたのは2例しかなく、妊娠例はゼロ。ともに採卵時40歳を超えていた。その他、保管期限を過ぎてもあきらめられない人が出てきたため、むしろ女性が若いうちに妊娠や出産に臨めるよう、啓発に力を入れる方が大事だと考えるようになった」

 −−今回の指針案をどう評価するか

 「指針を作ること自体は良いと思う。ただ、それだけでは足りない。今まで卵子凍結を実施してきた結果、いろいろな問題が見えてきた。実施に当たっては、個々の医療施設に任せるだけというのは無理がある。たとえば、保存卵子が地震や火災で失われたり、盗難やすり替えなどが発生した場合はどう対処するのか。また、長期保管の場合、施設自体が廃業することも考えられる。その際の引受先の確保はどうするのか。命の源を預かっているのだから、責任は重い。営利で行われないように骨髄バンクのような公的機関を設けることも考えたほうがいい」

 −−指針案を受けて再開する予定は

 「今のところはない。ただ、がんの放射線治療を行っている人たちには今も行っている。必要な技術だが、過剰な期待はよくない」

 −−晩婚化や高齢出産を助長するとの懸念もある

 「もちろん、本来20歳から35歳程度の適齢期での出産が望ましい。だが職場によっては、産休・育休で何年も休むことがキャリア形成上難しいこともあるだろう。出産や育児は大事だが、時代を昔に戻し、女性を家庭に閉じ込める形で解決しようというのは無理だ。育児をしながら働けるように、社会全体でサポートしていかなければならない。当事者である適齢期の女性ばかりに責任を求めるのは間違っている。人間の生殖年齢は昔から変わらないので、これに合わせる形で社会を変えなければ。卵子凍結は働く女性をサポートする一手段ではあるが、これを使わないですむ方向に進むのが望ましい」(磨井慎吾)

 【プロフィル】桑山正成(くわやま・まさしげ) 昭和37年、大阪府生まれ。51歳。北海道大大学院修了。平成11年に世界で初めて、ヒト卵子の凍結保存の実用化に成功した。加藤レディスクリニック先端生殖医学研究所代表などを経て、現職。

 【プロフィル】根津八紘(ねつ・やひろ) 昭和17年、長野県生まれ。71歳。信州大医学部卒業。昭和51年に長野県下諏訪町に諏訪マタニティークリニックを開院。周産期・生殖医療の専門家として知られ、61年の日本初の減胎手術実施など業績多数。

最終更新:9月24日(火)11時3分

産経新聞

 

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