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番外編 多数視点
番外編 とある思い出は箱の中で
 私は、夜になると思い出してしまう。
 何回も何回も繰り返し、繰り返し続けていて……。
 アイツの赤くなった瞳が、声が、手が、初めてリアルな恐怖を覚えさせた。動けなかった。前に動かなきゃいけなかったのに後ろに動いてしまった。
 今を生きている。
 これだけ考えると正解だったと思う。生きたいと望んだのだから。
 けれど。
 それは本当に、捨ててまで望むべきことだったのだろうか。大事なものを失ってまで叶えるものじゃなかったのではないだろうか。分からない。生きていることに喜びと悲しみを感じている。どちらもが邪魔をする。

 生きること。

 助けること。

 どちらも望んでいた。同等の感情だった。
 なのに、望んでいたにも拘らず私は一つを捨ててしまった。

 懐かしい声が聞こえる。

 ――結局、助けるなんて言葉は偽物だったんだよね?

「違うッ!……それは、違う。確かに本物だった。本物だったの。ただ……」

 それを理由に逃げてしまった。

 ――同じだよ。ただの飾り。

「ホントなの、信じて」

 ――信じられない。捨てた時点で偽物だよ。盾にしているだけ。

「……違う」

 ――違わない。

「違う!」

 ――なら、交代しようよ。

「え?」


 世界が暗転した。
 目を開けると真っ暗だった。

 どこ?

 横になっているようだった。ベッドで寝てしまったのだろう。
 私は起き上がろうとした。
 だが、動けない。体に力を入れても何かに押さえられていて起き上がれない。それに痛い。なに、これ?

 と、聞き覚えのある声がした。

「あ」
 なんで? どうして?
「助けるから! いま助けを呼んでくるから!」
 え? 

 待って、待ってよ……待って。待って、待って、待って待って待って待って待って!

 入ってくる。入って、蠢めいている。
 嫌だ。気持ち悪い。やめて。

 助けて!

 暗転から一転。
 私は目を覚ました。
「夢……か……」



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