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番外編 多数視点
番外編 とある男と独りの少女
 世界にウイルスが蔓延した。テレビニュースでわたしは知った。
 そのウイルスに感染すると性欲が抑えきれなくなり、人は理性を失う生き物になる。
 怖いと思った。
 性のことは学校で学んで知っていた。理解できていないこともあるけれど、男のアレと女のアレをつかうことは解っていた。それである事が起これば子供が出来ることも。
 男のアレだって見たことがある。ネットの画面を通してなら。
 学んで興味を持ったけど、彼氏がいないわたしはネットの世界に頼るしかない。今でも彼氏はいない。学校へ行けなくなったせいだ。クラスの男子たちに恋することも出来なかった。けどまさか、おじさんに恋をするとは思っていなかった。
 テレビを見た約一か月後。両親と共にわたしはある商業施設に行き、そして家へ帰らず住みついた。そこにはわたしたち以外の人も居た。みんな同じ理由だった。
 たくさん人が居た。そのせいで食べ物は少量しかなかった。
 だからみんな同じだった。多く得るために行動する。
 外へ行く者、他人の食べ物を奪う者。
 わたし達も例外ではなかった。外へ行くはずだった。けれど。
 わたしの両親は争いに巻き込まれて死ん……殺されてしまった。
 人間という同じものに殺されてしまった。
 幸運か不運か、わたしは殺されなかった。その時、親と一緒じゃなかったからだった。
 とても独りじゃ生きていけなかった。周りに守ってくれるものがないのに、こんな場所で生きていけるわけなかった。

 でも、生きている。わたしは生きている。
 それもこれも、貴方がいたから。
「なのに……なのに……、どうして死んじゃうの? わたし、これからどうやって生きていけばいいの? 答えてください。お願いします……。教えてください。貴方はどうして、わたしを助けたんですか? なんで、なんで……なんで……。わたしなんかを助けたんですかっ……! もう一度、声を聴かせてください。本当は嬉しかったんです。『好きになったみたい』って言ってくれた時、嬉しかったんです。だから、もう一度言ってください!」
 鼓動がない胸に顔をうずめる。
「!」
 彼の声だと一瞬思ってしまった。面を上げて声がする方へ振り向いた。
「アアアアッ! アアア―――」
 感染者だった。



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