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【憲法と、】

第6部 福島の希望<1> 「権利」奪った原発

 原発は 田んぼも畑も海も

 人の住むところも

 ぜーんぶかっぱらったんだ

「普通の生活に戻りたい」と話す青田勝彦と恵子=大津市で

写真

 四月二十四日、福島の方言である相馬弁の詩が、福井地裁で朗読された。関西電力大飯原発運転差し止め訴訟の口頭弁論。原告側は「原発事故は、憲法が保障する幸福追求権などの権利を奪う」と主張した。

 詩の作者は青田恵子(63)。夫の勝彦(71)とともに東京電力福島第一原発から三十キロ圏内の福島県南相馬市原町区から滋賀県の大津市に避難している。

 元高校教師の勝彦はかつて、福島第二原発設置許可取り消し訴訟の原告になり、敗訴した。恵子は、小学校の社会科見学で原発に行くことに「こうやって、子どものころから原発にならされていくんだな」と違和感を覚えていた。

 二〇一一年三月十四日、福島第一原発3号機の爆発音を聞く。花火の打ち上げのような腹に響く音だった。「こりゃだめだ」。宮城県に二カ月間避難し、湯飲みや茶わんなどの日用品を購入。後に、この費用を東電に賠償請求したが、「領収書が必要」と断られる。

 一万円なんと いらねえわ

 そのかわり“3・11”前の福島さ 戻してくいろ

 恵子の詩に怒りと悲しみがにじむ。

   ■  ■

 私たちの神隠しはきょうかもしれない

 うしろで子どもの声がした気がする

 ふりむいてもだれもいない

 なにかが背筋をぞくっと襲う

 同じ原町区に住み、勝彦と一緒に福島第二訴訟の原告となった詩人、若松丈太郎(78)が「神隠しされた街」という詩をつくったのはチェルノブイリ原発事故から八年後の一九九四年。民間の福島県民調査団に参加し、現地を訪れたときのことだ。十七年後、その懸念は現実となる。

   ■  ■

 国民ハ健康ニシテ文化的水準ノ生活ヲ営ム権利ヲ有ス

 恵子や若松の自宅より、さらに原発に近い小高(おだか)町(現南相馬市小高区)で生まれた憲法学者の鈴木安蔵(一九〇四〜八三)は終戦直後、憲法研究会の仲間とつくった「憲法草案要綱」の中に記した。要綱は連合国軍総司令部(GHQ)が日本国憲法の草案をつくる際、参考にし、詳細な検討が加えられたとされる。

 若松は「小高は昔から農民運動や自由民権運動が盛んな場所」と話し、現行憲法には小高の血が通っていると思っている。これを「米国の押しつけ」と言って変えようとすることにも、原発は「平和利用だから安全」としてきたことにも、共通する権力者側の「ごまかし」を感じる。

   ■  ■

 青田夫婦は、鈴木が切望した健康で文化的水準の生活を営む権利を求め続ける。大飯原発の運転差し止め裁判は関西各地で起こされ、勝彦は滋賀の原告団に加わった。原発再稼働を進めようとする政府や電力会社に、勝彦は「いささかの反省もない」と憤る。「今でも各地で原発反対のデモはある。この世論が救いだ」 (敬称略)

     ◇

 福島第一原発事故で、行く末見えぬ暮らしの中、憲法に一筋の光を見いだす人々を訪ねた。

 

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