6月15日政府の諮問機関「安心社会実現会議」が報告書を提出した。
格差、貧困など構造改革路線によって生じたひずみを雇用対策などで是正していくとの方針を鮮明に打ち出した。
小泉純一郎内閣以来、首相官邸主導を演出する政策の企画、立案の場であった「経済財政諮問会議」から「安心社会実現会議」に軸足が移りつつある。同会議を提唱し、牽引する与謝野馨氏(財務・金融・経済財政担当大臣)が会議への参加を熱望し、会議の理念的な柱とも言われるのが北海道大学大学院法学研究科教授、宮本太郎氏である。
―― 安心社会実現会議のメンバーになられたいきさつは。
宮本 最初は会議のメンバーになることをお断りしたんですよ。なぜかって? 政権の片棒をかつぐことになるのはいやだったし、自分がそのお役にたてるとも思えなかったからです(苦笑)。
それと、安心社会実現会議というものが何を目指しているのか。その理念のようなものも分かっていませんでしたから。
その後、内閣府の方や大臣(与謝野馨氏)ともお会いしまして…、大臣の口から「この会議は一政党や一内閣のためのものではない、日本の将来のためのものであって“超然”としたものである」という説明を受け、与謝野大臣の本気度を感じました。また、連合の高木(剛・日本労働組合総連合会=連合会長)さんなど、幅の広い構成であることを聞いて参画させていただくこととなりました。
社会保障に対する矛盾した感情
―― 与謝野大臣は様々な集まりで宮本先生の近著『福祉政治 日本の生活保障とデモクラシー』を口にしています。先生の何を求めているのでしょうか。
宮本 日本の社会保障は少ないながら、その保障を「人生の後半」に集中させてきた。どういうことかと言うと、前半、つまり元気で働けるうちは一家の主人が会社などの働き手となり、家族の面倒を見る。そして、会社を辞めた後の後半は、生活保障によって生活をしていく。簡単に言うと、こうした構図が日本の生活保障だったわけです。その構図が崩れてしまい、どう立て直すかという状況が今です。
ただし、状況はそうなのですが、国民の社会保障に対する感情は非常にアンビバレントな(矛盾する)ものになっている。それはこういうことです。
福祉社会は望ましく、また、その負担をしてもいいと思っている方が非常に多い。けれども、年金問題など社会保障にまつわる不祥事が相次いだ結果、負担した見返りがちゃんとあるのかと不信感が渦巻くようになった。それが現状ではないでしょうか。
社会保障は非常にテクニカルな問題ですから、年金問題の専門家だけでもダメだし、労働問題や失業問題の専門家だけでもダメ。
その点、私は社会保障の専門家ではなく政治学が専門です。政治学という間口が広く、分野も多岐にわたるところで社会保障を学んできました。与謝野大臣は、そんな間口の広さと言うか、広く浅く見られる人間を探していたんじゃないでしょうか。
構造改革と言いながら「構造」を理解していたのか
―― 経済状態の悪化はストレートに雇用の悪化につながっています。また政治、官僚システムへの不満もある。加えて家族の問題なども抱えていて、日本全体が“不安”という2文字に包まれているような気がします。
宮本 小泉(純一郎)政権の構造改革がすべて無意味だったと言うつもりはない。けれども、日本の社会や経済の構造改革と銘打ちながら、本当にその構造を理解していたのか、押さえていたのか。非常に疑問が残る点です。
小泉改革は、基本的にアングロサクソン的な市場原理主義モデルを目指す発想です。こう言うと竹中(平蔵・元経済財政担当大臣)さんは怒るけれども(笑)。
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