脚本家・宮藤官九郎インタビュー 『あまちゃん』の放送開始まで、もうあとわずかです。そこで、脚本を担当する宮藤官九郎さんに、台本を書き進めている今の心境や今回のドラマのイメージについて語ってもらいました。

競技が変わった、競技場が変わった、という感覚です。

NHKのドラマは初めてで、それが“朝ドラ”なので緊張しています。しかも、毎回15分で終わるドラマというのが、自分にとって新鮮というか、未体験のことなので・・・。そういう意味では、自分の持っているものは変わらないですけど、競技が変わったというか、競技場が変わったというか、種目が変わったという感覚ですね。
僕の今までやり方だと、伏線をはったり、前フリをするだけで15分が過ぎちゃうので、これまでの感覚では書けないですよね。そこは、大変だし、おもしろいところでもあると思います。

掘り下げても、掘り下げても、まだまだ話は終わらない。

まず、全156話という量に驚きました。これまでの連続ドラマなら、50分×10話とか11話なので、一応自分のなかで把握できる、3か月の間に、こんなことがあって、次にこうなってと。それが今回は、月曜日から土曜日まであって、それが全26週で、全156話ですよね。そうなるともう把握できない。自分で把握できない量に、本当に驚いています。
また、いろいろな登場人物を描きながらそれぞれのキャラクターを掘り下げていくわけですが、自分的には「もうかなり掘り下げたな」と思っても、まだ物語は半分も終わっていない、みたいな(笑)。
そうすると、「あれ?この人、最初に言っていたことと違うな」とか、なかなか一貫した人物像にするのが難しくなる。でも、考えてみると人ってみんな一貫しているわけではなくて、悩んだり迷ったりして変わっていくわけだから、それはそれでいいんだと考えるようになりました。見ている人も、半年間、一貫した人物だとあきちゃうと思うので・・・。

『あまちゃん』は3年くらい終わらない?

書き始めたのは、意外と早くて(2012年の)春くらいから。でも、別の仕事で映画の撮影もあったし、『あまちゃん』は海女が登場する話なので、当然、海に潜るシーンが出てくるので、それはなるべく暖かい季節に撮らなくてはいけない。かといって、潜るシーンだけ先に書くわけにはいかないので、早くから書き始めました。
早くから書き始めましたが、なかなかゴールは見えないですね。僕のなかでは『あまちゃん』は3年くらい終わらないじゃないかという感覚です(笑)。

地元アイドルもローカル線も。

今回の企画を考えていたころ、これまでみたいにテレビ出ている有名なアイドルに夢中になるのではなく、誰も知らないようなマイナーなアイドルを探し出して応援するといった人たちがけっこういたんですね。
で、そういうマイナーなアイドルはその地方に行かないと見られないし、会えないので、みんなが出かけていく。でも、そういう人たちと地元の人たちは、最初はまったく相いれない関係なんですよ(笑)。「なんだ、こいつら?」みたいな。でも、その地元のアイドルを通して、両者がつながっていく。そういう話をイメージしていました。
そんなときに、今回のロケ地である岩手県の久慈市に行ったら、そこには三陸鉄道というローカル線があって、アイドルではないけど、そのローカル線を目当てに鉄道マニアの人たちが集まって来たそうなんです。最初、地元の三陸鉄道の人たちには、「あの人たちと、どう付き合っていけばいいのか?」みたいなことがあって(笑)、でも、話してみると「悪人じゃない」、「電車が好きだということでは一緒だ」みたいな(笑)。そういう話を聞いて、久慈市という場所を撮影の舞台にするのは、自分のイメージと合うなと感じました。

いやいや、肉より“ずんだ”だから。

今回のヒロイン(能年玲奈)は、東京で生まれの東京で育ち。その子が北三陸という母親(小泉今日子)の故郷に行きます。東京育ちのヒロインは、そこで祖母(宮本信子)が海に潜ってウニを採っている姿に「なんだ、これ?」ってカルチャーショックを受けて、「おもしろい!私もやってみたい」と思う。逆にずっとその土地に暮らしている女の子にしてみれば、海女の姿なんてあまりにも日常過ぎて興味すらもてない。



あと、言葉もそうですね。東京から来たヒロインは、東北弁がかっこいいと思って積極的になまる。でも、ずっと地元で育った子は、なまりは恥ずかしいと思って標準語をしゃべる。そういう、物事に対する見方や感じ方のコントラストを色濃く出していこうと思っています。
あと、町おこしを考えたときも、地元の人たちは「これを押し出したい」というのがあるけど、よその土地の人から見ると「それはどうでもいいよ、それよりこっちでしょう」みたいなこともありますよね。そのギャップみたいなものって確実にあると思うので、そこを掘り下げていくとおもしろいと思っています。
僕も実家に帰って、本当は宮城に帰って来たのだから、「ずんだ」とか海のものとか食べたかったりするけど、母親は気合いを入れてステーキを焼いてくれたりするんですね(笑)。僕的にはそっちじゃないと思うけど、母親からするとわざわざ東京から帰って来たのだから、ふだん自分たちが食べているようなものは出せないと考える。でも、僕が食べたいのは、それだ!みたいな(笑)。そういうズレみたいなものを描ければおもしろいなと思っています。

まず、登場人物や役者さんを好きになってほしい。

“朝ドラ”ということで、僕のドラマをこれまで見たことのない人も見ることになると思うので、そこは自分としては楽しみな部分でもあります。また、僕のことを知っている人には、「あら?宮藤が書くのは次の“朝ドラ”と思っていた」と最後まで気づかずに見てもらうのが理想ですね。
とにかく、構えずに見てほしいです。1日くらい見逃したくらいで分からない話ではないです。
でも、一週間見逃すと、ちょっとまずいです(笑)。
登場人物たちがかわいげのあるキャラクターになっているはずなので、作品としてどうのというより、まず登場人物や役者さんを好きになってもらえれば、自然に楽しめるドラマになっていると思います。
朝ご飯を食べながらや、食べ終わったあとに見るドラマですから、やはり見ながら笑顔になってほしいし、元気になってほしいなと思っています。

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