ゼノヴィアさんは容赦しないッッ!!! (路傍石彦)

ゼノヴィアさんは容赦しないッッ!!!

「それにしても貴様等神の使徒はよく頑張るものだな……仕える神などもうとっくに死んでると言うのに!」

 堕天使コカビエルは嘲笑うように言った。

 聖書に伝えられる神は三勢力間の戦いで既に死んでいるのだと……天使長ミカエルを筆頭とする天界がそのシステムを騙し騙し維持しているだけだと…… 神 は 死 ん だ と。

「貴様等がどれほど祈り崇めたところで、その祈りが届く事などうぼぁああああッッ!!!」

 でもそんなの関係ねえとばかりにゼノヴィアが繰り出した、聖剣デュランダルの一撃がコカビエルの黒翼の一羽を切断した。

「き、貴様……人の話は最後まで」
「お前は人ではなく堕天使だろうが」

 ゼノヴィアは続けて容赦なく蹴りをぶち込んだ。本職の兄貴ですら「姉さん、もう少し容赦してやってもいいんじゃ……」と言いそうなくらいに容赦のない、無慈悲極まる断罪キック!

「いくら堕天使とはいえ、不敬にもほどがあるぞ」

 間髪入れず、起きあがろうとするコカビエルに繰り出される、雷神トールの鉄槌にも似た容赦のない踏みつけ!
 厚いヒールに全体重を乗せた断罪ストンピングは、大地を穿つ隕石めいて強烈無比ッッ!!!

「き、貴様……俺の言う事を信じないのか……俺はぐぼらぁああああああッッ!!!」
「まだ言うか、不敬の輩め」

 汚れた堕天使の言葉を聞くような安い耳は持たないとばかりに、ゼノヴィアは倒れ伏したままのコカビエルの背中に、デュランダルでの連打を見舞う。罪人に鞭をくらわす処刑人めいた、無慈悲なる猛攻!
 ゼノヴィアの宝石めいて煌めく琥珀色の瞳が濡れて、白い頬にわずかな赤みが差し、桜色の可愛らしい唇の端はかすかに上向いているが、 気 に し て は い け な い ッ ッ ! ! !

「戦闘中の敵の言葉を信じる奴がいると思うか?
 ましてや貴様のような汚れた堕天使の言葉を聞くような、そんな安い耳は持たない」
「うぼぁああああッッ!!!」

 切り裂かれたコカビエルの黒羽が舞い上がり、聖剣デュランダルを振るうゼノヴィアの姿に背徳的な美を添えた。

 そう、今の彼女は異端を切り裂く無慈悲にして清廉なる刃、神命を全うする正義の剣……神の教えを守り、聖務を執行する事にこれ以上ない喜びと充実感を覚える敬虔なる使徒なのだ。

 戦闘服の胸部先端に小さな突起の陰が出来てたり、戦いの疲労とは違う意味で息が荒くなったりしているが、それもあくまでも神敵を打ちのめす使命感故であり、決して何かを切り刻む感触で興奮している訳ではないッッ!!!

「まぁ、百万光年ほど譲って貴様の言葉が真実だったとしてだ…… だ か ら 何 だ ?」
「えっ……」
「仮に我等の主がお亡くなりになったとしても、主の教えまで消えた訳ではない……我々は偉大なる主の尊き教えを未来永劫守り抜き、伝えてゆかねばならない……それが残された者の務めというものだ。
 だがまぁ……なかなか興味深いものは見れたよ。さっきの貴様の顔、あれが世に言うところの“ドヤ顔”というやつなのだな。勉強になった」
「ぐっ……貴っっっ様ぁぁあああああああッッ!!!」

 コカビエルは怒りに吼えて、まだ残っているボロボロの黒翼を広げて宙に舞い上がった!

「許さん……許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さぁぁあああああああんッッ!!!」

 コカビエルの周囲に、一本でも体育館を消滅させる光の槍が複数現れる……その数、実に十本!
 空を見上げるオカルト研究部の面々は一様に、恐怖で顔を歪めた。

 ああ、良い顔だ……あの悪魔どもは実に良い表情をする……それに引き換えあの人間は! あの聖剣使いは! 俺を散々にコケにしてくれおってッッ!!!

 コカビエルはゼノヴィアへの怒りを改めて燃え上がらせて、彼女一人目掛けて槍を振らせようとした――が。

「…………?」

 眼下に見るリアス・グレモリー率いるオカルト研究部の目線が、何かおかしい。
 どうも自分ではなく、更にその上を見てるように感じられた。

 なんだ?
 この状況で俺よりも恐ろしいものが、俺の頭上にあるとでもいうのか?

 思わず頭上を見上げたコカビエルの顔が、オカルト研究部同様に恐怖に歪んだ。

 コカビエルの更に頭上の空間に、聖剣デュランダルが群れなして浮遊しているのだ……その数は、百を越えているだろう……!

「な、な、何だこれはぁぁあああああアアアアッッ!!!」

 驚きのあまりに、最後は声が裏返ってしまうコカビエル。
 デュランダルは地上にいる聖剣使いが持っているはず……それが何故こうも無数に宙に浮いているのだ!?

「デュランダルの莫大な聖なるオーラ……それを物質化させて創ったコピー品だ」

 ゼノヴィアが誇らしげに説明を始めた。

「しかし、コピー品だからといって甘く見るなよ? このデュランダルの攻撃力を100とするなら、その写し身は一本一本が90くらいはある……堕天使コカビエル、貴様は何本まで耐えられるかな!?」

 ゼノヴィアは手中のデュランダルを、オーケストラの指揮者のように……或いは大隊を指揮する将官のように振った。
 瞬間、それを合図に空中のコピーデュランダルの群れが流星雨となってコカビエルに降り注ぐ!
 コカビエルは光の槍を放って迎撃するが、数が違いすぎた!

「うぼぁぁぁああああああああッッ!!!」

 聖剣の集中砲火が、天空に巨大な光の花を咲かせる。その中から響くコカビエルの悲鳴。

「おかわりだ。持っていけ」

 ゼノヴィアは自分の周囲にも同じ数のコピーデュランダルを生み出して、上空のコカビエルに容赦なく一斉発射した!

「うぼぁぁぁああああああああッッ!!!」

 より強く響き渡る、コカビエルの絶望の叫び!

 攻撃が終わった時、空にも地上にも、ゼノヴィア以外で立っている者は一人もいなかった。

 悪魔にとって聖剣は誇張抜きに天敵である。オーラを物質化させて創ったコピー品とはいえ、最強クラスの聖剣デュランダルとほぼ同等の聖剣の群れ、実に二百……オカルト研究部は全員が、ナイアガラの大瀑布めいて圧倒的な聖なる波動に当てられて、白目を剥いて気絶していた。

 そして、天地両面からの二重攻撃を受けたコカビエルは、哀れなくらいボロボロになって、力無く地面に落っこちた。

「なんだ、まだ原型を留めているのか」

 ゼノヴィアはむしろ嬉しそうにつぶやきながら、コカビエルに歩み寄る。

 端正な口元に愉悦の笑みが浮かんでいる。歯応えのある強敵に出会えて嬉しいのだろう。決して、まだまだこの堕天使をデュランダルで切り刻める事に喜んでる訳ではない。

「き……さ……ま……」
「苦しいか? 不敬を口にした天罰だ。懺悔するがいい……貴様の魂を焼く煉獄の炎が、少しでも和らぐようにな」

 トドメの一太刀を加えんと、ゼノヴィアはデュランダルを両手で握り、高々と振り上げた。
 コカビエルは断頭台に掛けられた死刑囚めいた絶望と恐怖に顔を歪める。
 断罪の聖刃が振り下ろされて――、

『Divide!』

 白い影が両者の間に割って入り、コカビエルをかばうようにデュランダルを受け止めた!

 白い鎧を身に纏う戦士は、背中から光り輝く翼を広げて、白龍のごとき雄姿であった。

「半減させてなおこれほどのパワーか……骨の髄にまで衝撃が来たぞ、デュランダル使い」

 戦士は交差した両手で聖剣デュランダルを受け止めたまま、不敵に言ってのける。

「“半減させて”……? 貴様が現世の白龍皇か……」
「ヴァーリ・ルシファーという。今日はおつかいがあるのでな、また今度、キミの本気の剣の舞いを堪能させてもらおう」

 ヴァーリと名乗った戦士――声はまだ若い少年のようだ――は、デュランダルを払いのけるとコカビエルを引っ越し荷物か何かのように小脇に抱えた。

「そう言わず遊んでいけッッ!!!」

 ゼノヴィアは甘美な高揚感に笑いながら、デュランダルを真横に振り抜いた。
 胴体を狙った斬撃はむなしく空を切る。
 振り抜かれた刃の上に、ヴァーリがコカビエルを抱えたまま立っていた。
 その左足が白鳥めいた優雅さで上がり……、

 ズ ド ン ッ !

 戦車砲めいた前蹴りをゼノヴィアの胸に撃ち込んで、デュランダルごと彼女を遥か後方へ吹き飛ばした!

「今のは挨拶だ。また逢えた時に続きをやろう……俺のライバルくんにもよろしくな、デュランダル使い殿」

 ヴァーリは光翼を羽ばたかせて、空の彼方に消えていった。

「くっ……逃がしたか……」

 ゼノヴィアは起き上がって、歯噛みしながら虚空を睨んでいた……さすがに空は飛べない。

 手の中のデュランダルが唸りを上げた。

「すまないデュランダル。せっかくの極上の獲物を……次に逢えたら、思う存分やつの鎧を切り刻ませてやるからな」

 ゼノヴィアは自分の髪と同じ青い刀身に、約束のキスをした。




 最強のデュランダル使いと最強の白龍皇が全力で闘うのは、この日から数年の後である。

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