時論公論 「"コントロールされている"のか 原発汚染水」2013年09月11日 (水)

水野 倫之  解説委員

「私ははっきり申し上げる。状況はコントロールされている。」
原発事故から2年半、現場では汚染水の流出が止まらない非常事態、国際的にも懸念。
これに対して安倍総理大臣はオリンピックの総会の場で「コントロールされている」と説明。しかし漏えいは続いている上に、対策に技術的な裏付けがあるわけではなく、違和感を持たざるを得ない。
政府が打ち出した汚染水対策に実効性あるのか、今夜は汚染水問題の課題について水野倫之解説委員。
 
j130911_mado.jpg

 

 

 

 

 

 

 

先週公表された1号機のタービン建屋地下の様子。
地下水が音を立てて建屋内に流れ込んでいる。毎日400tが汚染水に。
汚染水のタンクもすでに1000基、設置場所も切迫。
 
これに対する東電の対策はことごとく問題発生。
建屋に入り込む前の地下水をくみ上げて海に放出することを計画、漁業者の理解が得られず、実現の時期は見通せず。
また汚染水からほとんどの放射性物質を取り除くことができる装置も開発、機器の腐食で運転は止まったまま。
そして7月に地下のトンネルの汚染水が地下水に混じって海に毎日300t流出していることが判明し、追い打ちをかけるように地上のタンクからも300tが漏れた。
 
こうした状況に対して国際社会は強い懸念を示した。これに対して安倍総理大臣はIOCの総会の場で「状況はコントロールされている。汚染水の影響は原発の港湾内で完全にブロックされている」と説明して理解を求めた。
 
しかし本当にコントロールされていると言えるのでしょうか。福島県の人たちからは「汚染水の問題はまだコントロール下ではないと思います」という受け止めも聞かれる。
タンクからの漏えいについてはまだ原因が分からず、近くの井戸からは1Lあたり3200㏃のストロンチウムが検出され、汚染水が地下水に広がった恐れも。
 
j130911_01_1.jpg

 

 

 

 

 

 

 

また地下からの汚染水漏れでは、東電は地下水をさえぎる土の壁を作ったが、港湾内の放射能濃度は低くならず、汚染水は漏れ続けていると見られる。
 
j130911_01_3.jpg

 

 

 

 

 

 

 

ただ港の外では今のところ放射能は検出限界値以下、汚染拡大防止のため、港湾内にはカーテン状の特殊な布。しかし東電は「これで完全に遮だんできているわけではない」と説明。また水の流れを止めるための鋼鉄製の壁もまだ建設途中で、東電は港とその外側は水が行き来していると説明。
こうしたことから今後も漏れ続ければ港の外への影響も否定できないわけで、コントロールされているとは言い難いと思います。
 
j130911_01_7.jpg

 

 

 

 

 

 

 

たしかに政府は汚染水対策に総額470億円の国費を投入、関係閣僚会議を設置、現地に政府の事務所を置くなど積極的に対応する姿勢。
東電任せから脱却し、ようやく政府が前面に出てきたことは評価。
 
j130911_02.jpg

 

 

 

 

 

 

しかし国費投入の目玉となる、地下の土を凍らせて地下水を遮断する凍土壁の工事は、1年前倒しして来年度末までに完成させる方針、技術的なメドが立っているわけではなし。大がかりな凍土壁は世界でも例がなく、耐久性の検証が必要。
またもう一つの目玉の、汚染水から放射性物質を除去する装置もトリチウムだけは取り除くことができず、そのまま海に放出できない。しかもいずれも完成には1年以上。
 
一方で、今すぐやらなければならない緊急の対策への踏み込んだ対応は示されてない。政府はタンクの漏えい対策として、溶接型へ変更することを指示、特別な支援策はない。
東電への支援を、技術的に難しいものに絞っているため。
しかし溶接型の製造には時間がかかり、しばらくはボルト締め型も使わざるを得ず、東電は見回りの作業員を60人増やしたほか、漏れないようシーリングするなどの対策にもコストがかかる。政府が汚染水対策のすべてに責任を持って対応する形を取らなければ漏えいは止まらないと思う。国費の投入も含めタンクにもより踏み込んだ対応を検討してほしい。
 
j130911_03.jpg

 

 

 

 

 

 

また政府の体制についても強化はされていますが、もっと東電と一体となった体制が求められる。
今回のタンクからの漏えいの規模について東電はベクレルではなく、シーベルトで発表。これについて、規制委員会の田中委員長は「国際社会に間違った発信をしており怒りを感じる」と述べ、東電を指導する考え。タンク内の放射性物質の多くが出す放射線は透過力が弱いベータ線で、少し離れれば影響はほとんどなくなることからシーベルトでは誤解を招く恐れがあり、放射能の量を表すベクレルで発表すべきというもの。
こうした問題は東電と政府が一体となっておらず、情報発信も一元化できていないことが背景。
世界で高まる不安に説明を尽くすためにも、
政府は汚染水問題を専門に担当する閣僚を置き、そのもとに東電と関係省庁に規制委、それに専門家も含めた合同の対策本部を設置して、政府が強い権限で東電を指導し、日本政府としての統一見解を発信する体制をとらなければならないと思う。
 
j130911_04.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

このように体制を強化した上で、国費を投入していくことはやむを得ない。そうしなければ立ち行かないから。
しかし国費は税金、私企業に多額の税金を投入することに、国民の合意が得られているわけではない。
事故後、当時の民主党政権は東電をつぶさず、東電の責任で事故処理を行う仕組み。国が責任を負うことを避けたかったから。原子力損害賠償支援機構をつくって5兆円の資金を用意し、東電に貸し付けて事故処理をさせてきた。
しかしその後も赤字続きで、東電は10兆円を超える費用が必要として、さらなる支援を求めている。これは現在の支援の枠の2倍の額で、今後追加で国費の投入をせざるを得ない局面が出てくると思う。
政府は東電の支援のあり方についても改めて検討し、国費投入に国民の理解が得られるような仕組みを作っていく必要がある。
 
j130911_05.jpg

 

 

 

 

 

 

安倍総理大臣は汚染水問題に責任を持って対応すると国際社会に向けて約束。
日本の危機管理能力が問われている。
早急に汚染水の漏洩を食い止める対策にメドをつけて原発をコントロール下に置くことが求められる。
 
(水野倫之 解説委員)