イプシロン成功 国際受注へ具体的戦略を
この「打ち上げ成功」が、日本の宇宙開発の大きな転換点になることは間違いないだろう。鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から発射された宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新型固体燃料ロケット「イプシロン」1号機のことである。搭載された宇宙望遠鏡も、予定軌道に無事投入された。
イプシロンは、最新の情報技術を駆使して高性能と低コストを両立した。
パソコン2台でロケットを打ち上げる革新的な「モバイル管制」など至る所に斬新なアイデアが詰め込まれている。
日本の新型ロケット打ち上げは、H2Aロケット以来12年ぶりだ。
配線トラブルなど2度の打ち上げ延期を乗り越え、悲願を達成した。その成功を喜ぶとともに、日本の宇宙ビジネスの活路を開く契機となるよう期待したい。
1950年代に東京大の糸川英夫博士が開発したペンシルロケットが源流のイプシロンは、日本の独自技術で発展させてきた固体燃料ロケットの最新型だ。
全長24・4メートル、重さ91トンで、同観測所で打ち上げられてきたM5ロケットの後継機になる。M5は高性能ながらコスト高を理由に廃止されただけに、開発ではコスト削減が最優先課題となった。
人工知能による自動点検などの新技術で作業を簡素化、省力化した。打ち上げ費用はM5の7割の約53億円に抑え、将来は30億円まで下げる計画だ。発射台据え付けから打ち上げまでの期間も以前の6分の1の7日間に短縮されている。
日本のロケットは固体燃料と液体燃料の2本立てだ。液体燃料を使う大型のH2AとH2Bは十年来、失敗がなく信頼性を高めている。取り扱いが簡単な固体燃料は室温で長期保存ができ、日本では科学衛星用のロケットとして発展した。
コスト削減と期間短縮を実現したイプシロンの成功で、大型衛星にはH2AやH2B、小型衛星にはイプシロンという日本の陣容が整ったことになる。海外からの小型衛星打ち上げ受注の増加に結びつくことが期待されるのは確かだろう。
だが世界へ目を向けると、課題は山積している。ロケットは世界で1年に約70機が打ち上げられているが、商用衛星はこのうち3分の1程度で大半は欧州とロシアで分け合っているという。
さらに、中国や米国の民間企業も参入し、競争が激化している。これに対して日本は打ち上げ実績が少ない上に費用も高く、現状では政府関連の需要以外はまだ取り込めていないのが現状だ。
希望の星となったイプシロンだが、当面はコストをさらに減らす取り組みを優先させる方針で、2号機の打ち上げは2年先になる。その後は未定だ。
国際間の激烈な受注競争は、この間もやむことはない。専門家は「国際競争
力の源泉は商業打ち上げに対する本気度だ」と指摘する。せっかくの高度な技術を「宝の持ち腐れ」にしないためにも、国としての具体的な戦略が欠かせない。
=2013/09/22付 西日本新聞朝刊=