私たちが、駅前や繁華街などの道路で街頭宣伝を行い、ビラを配付していると、しばしば、制服警官が、「許可はあるのか。なければ道交法違反だからやめろ」と妨害してきます。
しかし、原則として道路上でのビラ配付(街頭宣伝)に許可はいらないのです。
警官が「許可は?」と言う根拠は道路交通法77条1項4号 です。けれど、道路上の通常のビラ配付は同条項に該当しないという確定判決が、下級審ですがすでに3件出されており、それは裁判所の確立した判断となっています。
●東金市中央公民館事件(判例タイムズ755号145頁)
事件は、1987年1月15日午前11時20分ころ、千葉県東金市の中央公民館の前の歩道で、日本民主青年同盟の同盟員約15人が核兵器廃絶のビラまきと署名活動を行っていたところ、道交法77条1項4条および千葉県道交法施行細則11条9号による警察署長の道路使用許可を受けないビラ配付の容疑で、千葉県東部地区委員長が現行犯逮捕されたもの。
委員長が違法逮捕として国家賠償を提訴し、千葉地裁は91年1月28日、「逮捕は違法」と判決しました。
千葉地裁判決(注2)は、
@普段は通行量が多いという程でなく、一時に急激に増えるというような兆候のない相応の幅員の歩道上で、
A通行が大きく阻害されるようなおそれのない間隔である程度の人数の者が、
B通常の方法で行う、
ビラ配布行為は、許可を必要とする行為に該当しない、
と言い切っています。
交通がひんぱんではない道路で、通行を大きく阻害しない人数と方法で行うビラ配付に許可は必要ないということです。
では、繁華街や駅前のように交通にひんぱんな道路ではどうでしょうか。次の二つの判例でやはり、許可は必要ないとされています。
●有楽町事件2審判決(判例時報443号26頁)
事件は、1962年5月4日午前8時ころ、被告人らが東京の国鉄(当時)有楽町駅中央日比谷口前の交通ひんぱんな道路において、日本共産党関係の印刷物を通行人に配付したため検挙されたもの。一審東京地裁は、道交法77条1項4号に該当しないと無罪判決を出し、東京高裁も一審判決を支持しました。
東京高裁(注3)は、同条項は
「公安委員会が定めた行為であっても、……一般交通に著しい影響を及ぼすような行為に該当すると解することができなければ、法定の要許可行為とならない」と公安委員会の規制を制限しました。そして、ビラ配付はたとえそれが、「『交通のひんぱんな道路において』なされる場合でも」「その規模、態様等方法のいかんを問うことなく、すべて一般交通に著しい影響を及ぼすおそれがあるということはできない」と述べ、許可が必要なのは、「『一般交通に著しい影響をおよぼすような方法により』物を交付する場合に限る」として無罪判決を維持しました。
●大阪駅東口事件(判例時報922号21頁)
事件は、1977年12月3日、「11・22在日韓国人留学生青年不当逮捕を救援する会」のメンバー17人が大阪駅前でビラ配付をしたところ、大阪駅長の構内ビラ配付許可と所轄警察署長の道路使用許可を受けていないとして警察官が妨害し、その際、警察官への暴行などで現行犯逮捕された原告が、不当逮捕として国賠を提訴したもの。
大阪地裁判決(注4)は、
「(道交法77条1項4号は)『祭礼行事をし、又はロケーションをする等』と例示しているのであるから、その他の行事行動も、これらに類似する通行の形態や方法による道路の使用又は集合で、一般交通に著しい影響を及ぼすような行為を規制の対象としている」「これと類型を異にしているビラ配布まで規制の対象として予定してはいない」とビラ配付を原則として同条項の対象からはずしました。
そして、同条項をもとに制定されている大阪府道路交通規則15条9号で要許可行為とされている「交通のひんぱんな道路において通行する者に印刷物その他の物を交付すること」についても、「小人数で通常の方法でなされるビラ配布は、交通のひんぱんな道路で行われる場合でも、許可を要しない」と明言しています。
したがって、そもそもビラ配付には原則として許可は必要ないのです。すなわち、
1) 通行量の多いとは言えない道路はもちろん、交通のひんぱんな道路でも、
2) 通行を大きく阻害するような形態で行わない限り、
許可はいりません。
3) 各都道府県の道路交通規則などで、ビラ配付に許可が必要と明記されていたとしても、その規則は通常のビラ配付には適用されない
ということなのです。
これは署名活動など、街頭宣伝一般にも言うことができます。警官の違法・不当な介入には、こうした判例を指摘し、毅然として反撃しましょう。