「道路使用許可」について(再掲載)
未だに、「街頭演説をするには(必ず)道路使用許可を取らないといけない」などと言う人がいる、しかも、大学院で法律を勉強した人のなかにもそういう人がいるので、再度、説明文を掲載いたします(注:一部、加筆・修正しています)。
●「演説」するのに道路使用許可が必要なら、「通行」するのにも道路使用許可が必要になる
まず、「道交法77条1項4条」には、「道路において一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者は、当該行為に係る場所を管轄する警察署長の許可を受けなければならない。」とあります。この条文の「キーワード」は、以下の5つ(①〜⑤)の文言です。
①道路において一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態により道路を使用する行為
②道路において一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の方法により道路を使用する行為
「道路において一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態」とは、たとえば、「4列縦隊でデモ行進する」などの場合でしょう。
「道路において一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の方法」とは、たとえば、「大型自動車を(連ねて又はゆっくり)走行する」などの場合でしょう。
③道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為
「道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」とは、たとえば、「商品の宣伝」や「街頭演説」などの行為のうち、それらの行為によって道路に多数の人が集まるような行為のことでしょう。
これら①〜③のいずれか1つに当てはまれば「道路使用許可」を取らなければならない、言い換えれば、「一般交通に著しい影響を及ぼす(恐れがある)」というのが「道路使用許可」を取らなければならない「申請要件」なのです。
ところで、この「申請要件」が「一般交通に影響を及ぼす」ではなく、「一般交通に著しい影響を及ぼす」となっているところがミソです。これは、憲法21条「表現の自由(=言論の自由)」は最大限に保障されなければならない、「一般交通にちょっと影響があるからと言って、表現の自由(=言論の自由)を侵害してはならない」からでしょう。
④公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたもの
⑤警察署長の許可を受けなければならない
これは、各都道府県の公安委員会が、①〜③の要件に当てはまる行為を規制するために制定した「規則」よって、「警察署長の許可を受けなければならない」と定められている、ということです。
ここで、注目すべきは、「一箇所に留まってする行為(=③)」だけでなく、「道路を通行する行為(=①並びに②)」の場合も規制の対象になり得る、すなわち、「道路使用許可」の申請が必要な場合(=一般交通に著しい影響を及ぼす恐れがある場合)がある、ということです。「すべての街頭演説は、一般交通に著しい影響を及ぼす恐れがあるから、街頭演説をする際は(いつでも)道路使用許可を取らなければならない」と言う人たちが時々いますが、この論理は成り立ちません。なぜなら、規制の対象は、一箇所に留まってする行為(=③)だけでなく、道路を通行する行為(=①並びに②)の場合も含まれるわけですから、もし「街頭演説はすべて道路使用許可を取らなければならないなら、同様に、通行する行為もすべて道路使用許可を取らなければいけない」ことになる、しかし、こんなことは「あり得ない話」だからです。であれば、「街頭演説はすべて道路使用許可を取らなければならない」というのはウソとなります。
なお、この「一般交通に著しい影響を及ぼす」という行為には具体的にどういうものがあるか、ということについては、各都道府県の公安委員会が必要と認めて定めたもの、たとえば、東京都なら「東京都道路交通規則」、神奈川県なら「神奈川県道路交通法施行細則」に公安委員会が必要と認めて定めたものが列記されている、というわけです。
たとえば、「神奈川県道路交通法施行細則(17条)」で言えば、
(4)広告又は宣伝のため、車両等に著しく人目をひくような装飾をし、又は拡声器を用いて放送しながら道路を通行すること。
(5)道路において、旗、のぼり、看板、あんどんその他これらに類するものを持ち、楽器を鳴らし、又は著しく人目をひくような装いをして広告又は宣伝をすること。 (6)演説、演芸、奏楽、映写、路上販売その他の方法により、道路に人寄せをし、又は道路に人が集まるような行為をすること。 (9)交通のひんぱんな道路において、広告又は宣伝のため、印刷物その他の物を配布し、又は人が集まるような方法で寄付を募集し、若しくは署名を求める行為をすること。 あたりが、街宣活動に関連するところでしょう。
まず、(4)は「通行」に関してですから、街宣車を使わない私らの「街頭演説」にはあてはまりません。次に、(5)と(6)ですが、私らの「街頭演説」があてはまるとすれば、この2つでしょうが、そもそも、私らの通常の「街頭演説」は、「一般交通に著しい影響を及ぼす」ような行為ではありませんから、「道路使用許可」を申請する必要はありません。最後に、(9)ですが、私らが「街頭演説」する際、チラシを配布したり、寄付を募ったり、署名を求める場合は、「道路使用許可」の申請が必要になります。
なお、勘違いしてはならないのは、(当たり前ですが)「道路使用許可を取ったからと言って、一般交通に著しい影響を及ぼしていいわけではない」ということです。道路使用許可を取っていようがいまいが、「一般交通に著しい影響を及ぼしてはいけない」のです。たとえば、「道路使用許可」を取る必要のない場合(と言うか、事前に予見できない場合)でも、「一般交通に著しい影響を及ぼしてしまうような形態又は方法で(たまたま)通行する」のは、たとえそれが「たまたま」でも、「してはいけない」のです。
●「理論上、正しい」だけでなく、「裁判上も正しい」
「逮捕令状を考える会」というサイトに、「道路使用許可」に関する「裁判例」の記事が掲載されています。
上記の記事によりますと、演説という行為だけでなく、ビラを配布したり、寄付を募集したり、署名を求めたりする行為を道路上で行う場合でも、「道路使用許可」を(必ずしも)取らなければならないわけではない、ということです。私・ドクター差別は、前述の通り、「すべての街頭演説は、一般交通に著しい影響を及ぼす恐れがあるから、街頭演説をする際は(いつでも)道路使用許可を取らなければならない」などという(一部の)人たちの主張をすでに論破しておりますが、「裁判例がある」ということで、「理論上、正しい」だけでなく、「裁判上も正しい」ということになります。
①東金市中央公民館事件1987年(判例タイムズ755号145頁)
千葉地裁は、「普段は通行量が多いという程でなく、一時に急激に増えるというような兆候のない相応の幅員の歩道上で、通行が大きく阻害されるようなおそれのない間隔である程度の人数の者が、通常の方法で行う、ビラ配布行為は、許可を必要とする行為に該当しない」との判断を下しています。
②有楽町事件2審判決1962年(判例時報443号26頁)
東京高裁は、「公安委員会が定めた行為であっても、・・・一般交通に著しい影響を及ぼすような行為に該当すると解することができなければ、法定の要許可行為とならない」と公安委員会の規制を制限し、「ビラ配付はたとえそれが、交通のひんぱんな道路においてなされる場合でも、その規模、態様等方法のいかんを問うことなく、すべて一般交通に著しい影響を及ぼすおそれがあるということはできない」と述べ、「許可が必要なのは、一般交通に著しい影響をおよぼすような方法により物を交付する場合に限る」としました。
③大阪駅東口事件1977年(判例時報922号21頁)
大阪地裁は、「(道交法77条1項4号は)『祭礼行事をし、又はロケーションをする等』と例示しているのであるから、その他の行事行動も、これらに類似する通行の形態や方法による道路の使用又は集合で、一般交通に著しい影響を及ぼすような行為を規制の対象としている」のであり、「これと類型を異にしているビラ配布まで規制の対象として予定してはいない」と「ビラ配付を、原則として、同条項の対象ではない」としました。また、同条項をもとに制定されている大阪府道路交通規則15条9号で要許可行為とされている「交通のひんぱんな道路において通行する者に印刷物その他の物を交付すること」についても、「小人数で通常の方法でなされるビラ配布は、交通のひんぱんな道路で行われる場合でも、許可を要しない」としました。
要は、「一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」でなければ、街頭演説はもちろん、ビラを配布したり、寄付を募集したり、署名を求めたりする行為であっても、「道路使用許可」は必要ない、ということです。「街頭演説をするには(必ず)道路使用許可を取らないといけない」などというのは、真っ赤なウソというわけです。ただし、合法的な活動を心がけている私らとしては、(少人数の)街頭演説だけの場合は「道路使用許可」を取りませんが、ビラを配布したり、署名を(本格的に)求めたりする場合は、「通行の邪魔をされた」などと言いがかりをつけられる可能性を考え、念のため、「道路使用許可」を取っております。
|
「政治&社会」書庫の記事一覧
-
2013/9/22(日) 午後 2:18
-
2013/9/21(土) 午後 6:00
-
2013/9/21(土) 午後 0:21
-
2013/9/20(金) 午前 0:38
-
2013/9/18(水) 午後 10:03
-
2013/9/18(水) 午前 4:00
-
2013/9/17(火) 午後 11:24
コメント(9) ※投稿されたコメントはブログ開設者の承認後に公開されます。
●「演説」するのに道路使用許可が必要なら、「通行」するのにも道路使用許可が必要になる
道路は、国民の通行の用に供するためにあるのですよ。
通行するだけなら許可はいりません。関所は現在ありません。
通行の用に供する以外の道路使用は禁止なのです。
その例外として警察等の行政機関の許可(禁止の解除)があるのです。
ちなみに、
判例は、禁止違反についての評価規範にすぎません。(無罪)
行為規範においては通行以外の道路使用には許可が必要なのです。
行為規範と評価規範の違いが解っていないようですね。
2013/8/5(月) 午前 4:10 [ 東大平行線 ]
この道路使用許可の話は、人が先入観で判断して、その思い込みが強いほど、中々それを変えることは難しいということを示すいい例だと思います。必要だという方は、結論ありきでそれにあわせるように理論を組立てしまい、最終的には、「この判例はビラまきを規制しているから、街頭演説は別の問題」とか言う考え方もあったようですが、裁判結果を個別のビラまきにだけ限定する理由もわかりませんし、通常そこから類推するのが判例解釈だと思います。今まで許可のない街頭演説自体が、問題になり裁判になったこともないのが厳然たる事実ですし、”必要だと言う人は、その主張の根拠が示せていない”ことに気づいてないんですよね。なんだか専用車両の問題とも似た構図の気もしてきましたが(笑)いずれにしろ”街頭演説自体は許可の必要がなく広く一般に認められている”と判断するのが僕は自然だと思うのですが(苦笑)こうした事例にあたり考えることにより、任意周知歩行等による活動も、間違った先入観=「女性しか乗れない」を改める意味でも、大変有効な意義のある活動手段だと強く思いました。
2013/8/5(月) 午前 8:41 [ 任意確認電話 ]
久々に、「東大平行線」の登場です。まあ、今も、日に2〜3通は投稿がありますが、ほとんど「ボツ」です(苦笑)
>通行するだけなら許可はいりません。
ちゃんと、記事、いや、法律(=道交法)を読んでます? たとえ通行でも「一般交通に著しい影響を及ぼすような行為」は「道路使用許可」が必要だと書いてあるでしょ! いい加減、自分勝手な法解釈はお止めになったほうがよろしいですよ、みっともないから。
>行為規範と評価規範の違い
「知識があっても、その正しい使い方がわからない」という典型なのですよ、あなたの場合。「知識よりも、見識が大事」ということが全くわかっておられないようです(汗)
2013/8/5(月) 午前 10:34
任意確認電話様
>人が先入観で判断して、その思い込みが強いほど、中々それを変えることは難しいということを示すいい例
その通りです。しかも、「法の番人」である警察官の多くが「勘違い」、「思い込み」をしているから「厄介」です(苦笑) これにより、本来、払わなくていいお金(=申請費用)を払っている人がいるわけです。あるいは、お金を払えず(=週1回する場合、年10万円かかる)、街頭喧伝活動を断念する人もいるでしょう。これは、「言論の自由の侵害」と言えるでしょう。
>この判例はビラまきを規制しているから、街頭演説は別の問題
「一般交通の妨げになるビラ配りですらOKなのだから、単なる演説がOKでないはずがない」と考えるのは当たり前なのですが、「賛成派」には、こういう頭がない、んでしょうね(苦笑)
2013/8/5(月) 午前 10:50
続き
>今まで許可のない街頭演説自体が、問題になり裁判になったこともない
その通りです。「許可の有無」は問題ではない、問題になるのは「一般交通に著しい影響を及ぼしたかどうか」です。
ところで、「うるさい!」という通報でやって来る警察官(のほとんど)は、「道路使用許可の有無」を尋ねますが、それは「騒音規制」の問題であって、「道路使用許可」とは何の関係もない、的外れもいいところです。まあ、「侮辱(罪)」や「名誉毀損(罪)」を刑事事件(=刑法違反)知らない警察官もいましたから(汗)
そうそう、記事中の「裁判例」は、「任意確認電話」さんからいただいた情報ですね。あらためて感謝いたします。
2013/8/5(月) 午前 10:57
道路云々のくだりは刑法・民法の専門家ではない自分(社労士資格はあるが刑法も民法も範囲外)にはよく分からないが、警察官の法律知識の無さはどうにかしてほしい。警察官にも司法試験課せや。いや、弁護士にさえ、「女性専用車両は任意」ということを知らないのがいるから、司法試験課してもいっしょか。
2006年10月、西武池袋線ひばりヶ丘駅で腕を掴まれた事に関して、駅前の交番に「被害届を出したい」と申し出ると、
「え、女性専用車両乗ってたの?」
「迷惑なんだから」
「推定無罪?そんな法律用語はない」
「罪刑法定主義は今の話には関係ない」
「銭湯で女風呂入るのと一緒じゃん」
などのこと。
2013/8/5(月) 午後 4:43 [ 池ライト同性愛アスペzero3vryu1p性欲無 ]
推定無罪という中学校公民で習う程度の知識を「ない」と断じた無知さ(100歩譲って知らないのは仕方ないにしても、「そういう言葉があるの?」くらいの向上心を持つべき)、女性専用車両と銭湯を同列視する論理的思考力の無さ。
それらにも驚きですが、一貫して「女性専用車に乗ったおたくが悪い」という論調だった事。
警察というのは、「中立的に物を見る」んじゃなくて、警察官個人の個人的な考え方で被害届を受理する/しないを決めるんですかね。
なぜ「おたくが悪い」という前提のもとに話を進めたのか。中立的に判断しろっての。
というか、「女性専用車両に乗っていたら暴行されても仕方ない」というなら、この警官は、一般車に乗っていて痴漢された女には「専用車に乗らなかったのが悪い」、万引きされた店主には「防犯体制が手薄なのが悪い」というのか。
2013/8/5(月) 午後 4:48 [ 池ライト同性愛アスペzero3vryu1p性欲無 ]
まあ、その時は僕が粘ったので、最終的には「被害届書いてもいい」だったのだが、僕のほうが面倒くさくなってやめてしまった。今は後悔している。
また、昨年は、借りた物を返さない相手に返せと言ったらなんと相手は「身に覚えがない」と埼玉県所沢警察署生活安全課に駆け込み、そこから僕に電話が来て僕が加害者扱いされ一方的に電話を切られた。
お互いで言い分が違うのは当然だから、警察は双方の言い分を聞くのかと思ったら、こちらには言い分を言う機会さえ無いとは…。こりゃ冤罪が起きるはずだ。
(280万円踏み倒した相手に返済を求めた時にも、千葉県行徳警察署に似たような対応されたがここまではひどくなかった)
2013/8/5(月) 午後 4:55 [ 池ライト同性愛アスペzero3vryu1p性欲無 ]
ライト様
>刑法・民法の専門家ではない自分(社労士資格はあるが刑法も民法も範囲外)にはよく分からないが
まあ、「憲法で保障されている権利(=言論の自由)は最大限に尊重しましょう」ということですね。そこさえおさえておれば、細かい法律は知らなくても、「むやみに(=一般交通の妨げになっていないのに)制限はできない」ということはわかるでしょう。
>警察官の法律知識の無さはどうにかして
おっしゃる通りです。「法の番人」なら、最低限度の法律は知っていなければいけないでしょう。ただし、本当は、知識よりも見識が大事なんですけどね。
2013/8/5(月) 午後 5:44