米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融の量的緩和政策を終わらせる「出口戦略」へと踏み出す寸前で、立ち往生を強いられた。米国経済の復調に、なお不確実性が残るのが主な理由だ[記事全文]
後味の悪い別れ方だった。リーマン・ショックのあと、南米から出稼ぎにきていた多くの日系人が失業した。政府は09年、当分戻ってこないことを条件に、旅費相当の帰国支援金を渡し[記事全文]
米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融の量的緩和政策を終わらせる「出口戦略」へと踏み出す寸前で、立ち往生を強いられた。
米国経済の復調に、なお不確実性が残るのが主な理由だ。それは、緩和の終了をにらんで長期金利を押し上げる投機マネーの動きに行きつく。金利の上昇が雇用や設備投資の拡大を通じた景気の本格回復の流れを阻みかねないのだ。
景気テコ入れのために投機マネーを世界に解き放ったのが、ほかならぬ量的緩和である。これが政策目標である景気回復を妨げるジレンマは、異例の金融緩和に幕を引く難しさを改めて浮き彫りにする。
FRBは17〜18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、緩和の拡大ペースを落とすという市場の予想を裏切り、現状維持を決めた。「景気回復が本格的か、もう少し見極めたい」というのが直接の理由だ。
確かに、雇用の増加ぶりは鈍く、住宅部門の回復も勢いがない。また、来月には連邦議会が政府債務の上限引き上げ問題などで紛糾する恐れもある。
ただ、不安の諸要因を根底で結びつけているのは、住宅や自動車のローン金利の基礎となる長期金利の上昇である。
住宅と自動車の2大産業は、金融緩和が実体経済に波及する最大のチャンネルだ。ローン金利が上がると、消費、設備や住宅への投資、そして雇用の回復が妨げられる。
FRB議長が「出口」に言及した5月から長期金利はほぼ1%幅上がって3%近くに、住宅ローン金利も4%に達した。このまま不用意に出口戦略へ踏み込み、仮に財政を巡る議会の混迷でも重なれば、投機筋を勢いづかせる恐れもある。
米国の金利上昇は新興国からのマネー流出も招く。新興国が通貨防衛でドルを売り自国通貨を買う介入をすれば、原資として手持ちの米国債が売られ、金利が上がりやすくもなる。
FOMC後、長期金利はひとまず落ち着いた。議長は記者会見で「政策を市場の予想するがままに任せることはできない」と語ったが、市場との対話は一段と難しくなりそうだ。
FRBは出口戦略について早くから展望を示し、細心の注意を払ってことを進めてきた。それでも予期せぬ事態に動きが取りにくくなっている。
同じような量的緩和を進める日銀は出口戦略の議論すらも、「時期尚早」として封印している。将来の政策運営の難しさを考えれば、再考すべきだ。
後味の悪い別れ方だった。
リーマン・ショックのあと、南米から出稼ぎにきていた多くの日系人が失業した。政府は09年、当分戻ってこないことを条件に、旅費相当の帰国支援金を渡して帰国を促した。
この制度で、日系ブラジル人を中心に、約2万人が日本を去った。
定住資格を認めない期間は3年をめどに、経済と雇用の情勢で判断する。こう政府は説明していたが、4年以上たった現在も解除されていない。
帰国支援金は、本人30万円、家族1人につき20万円。
帰ろうにも渡航費もなかった人の助けにはなった。だが、支援と引き換えに再入国を認めない方法は、日本の出入国管理として異例だ。合法的に働いていた人たちだ。「手切れ金」と批判が出たのも、当然だろう。
対象者には、日本に残った家族や友人と離ればなれになった人、再び日本で働けるのを待っている人が少なくない。
出稼ぎの親と10年間日本で暮らした日系ブラジル人女性が日本在住の日系人と結婚したが、親が帰国支援金を受け取っていたことを理由に在留を認められなかった。裁判になり、入管当局は個人の事情をふまえて在留を認めたが、原則は変えていないという。
目安として示した3年を超えて入国制限を引き伸ばすのは、ゆきすぎではないか。
日系人労働者の失業問題がことさら深刻になった背景には、社会の受け入れが十分でなかったこともある。
政府は外国人の単純労働を認めない方針を続けてきたが、90年に日系人を例外として門戸を開いた。それ以降、南米からの出稼ぎ労働者が、経済の底辺を支えてきた。
一方で、言葉や生活習慣の違いで地域社会にとけこめない、子どもたちが勉強についていけず学校をドロップアウトする、といった問題も出てきた。
日系人家族を社会で受け入れるための政府の施策がこれといってないなか、日系人が集中する自治体や学校現場が、それぞれ問題に直面し、解決を迫られる。それが実情だった。
09年には、帰国支援とともに、日本に残った日系人労働者向けに、失業中に日本語などの力をつける研修制度がようやく導入された。再入国を認めるとともに、こうした支援を広げていくべきだ。
労働力としてではなく、人として受け入れる。その姿勢なしには雇用調整に利用している、との批判は免れないだろう。