マスコミが死者を冒涜してまで取材する理由と、その対策

2013/09/21


宇多田ヒカルさんのご母堂の葬儀にて、こんな話があったそうです。

「死者への冒涜だよ…」宇多田ヒカルさんが母の葬儀で出棺を妨害し撮影したマスコミに不信感 – ガジェット通信


「死者への冒涜だよ…」

人の葬儀にずけずけと乗り込み、霊柩車の前に立ちはだかって当事者たちの写真を撮る、というのは、正常な善悪感覚を持っている人間にはできない所業のように思えます。みなさん、同じことできますか?ぼくは良心の作用で、さすがにそういった行動は取れません。

しかし、このような信じがたい行動を取るマスコミ関係者は、実際に存在するのです。では、ここで登場する「報道陣」は、みなさん人間の良心を忘れた人々なのでしょうか。悪いことをしているのに、何の罪悪感を抱かない人々ばかりなのでしょうか。

こうしたマスコミの倫理的逸脱を見るたびに思い出すのは、有名な「ミルグラム実験(アイヒマンテスト)」。実験の内容を要約すると、

・実験協力者を集め「生徒」役と「教師」役に分ける。
・実験協力者には、この実験が「学習における罰の効果」を測定するものだと説明する。
・しかし、「生徒」は全員サクラ。本当の被験者は「教師」役になった人々。
・「教師」は「生徒」に単語テストを行う。
・単語テストの際、答えを間違えると生徒に電気ショックを与える。「教師」は1問間違えるごとに、15ボルトずつ電圧を上げていく。
・「生徒」は電気ショックを受けるたびに悶絶するが、それはすべて演技。実際には電気は流れていない。しかし、演技とは思えない迫力で、「生徒」は大絶叫する。
・「教師」が実験の続行に不安を感じ、降りようとすると、白衣を着た博士らしき男が「続行してください」と命令を下しにくる。
・「教師」は「博士」の命令を4回拒否すれば実験を中止することができる。
・最大の電圧が三度流されるまで、実験は継続する。

というものです。常識的に考えれば、大絶叫する生徒を前にして実験を中止しそうなものですが、実際には被験者40人中25人が、最大の450ボルトまでのスイッチを入れました

ミルグラム実験は、普通の人間が、一定の条件下で異様な攻撃性を発揮することを証明する実験として知られています。

ミルグラムは、権威が良心を眠らせることができるのは、服従者が「思考を調整する」ためだとみなした。つまり、「この行動について自分には責任がない」と考えるようになるのだ。彼の頭のなかで、自分はもはや道徳的に責任ある行動を取るべき人間ではなく、絶対的権威者の代行人にすぎなくなる。


冒頭で見たマスコミの行動もまた、「権威が良心を眠らせ」た結果といえるのではないでしょうか。彼らはつまり「会社」、または「自分が所属する媒体」という「権威」に晒されることによって、良心が麻痺してしまっているのです。

これは邪推ですが、霊柩車の前で立ちはだかった彼らは「本当はやりたくないけれど、仕方なくやったんだ」と考えているかもしれません。自分はあくまで「絶対的権威者の代行人」であり、自由意志・拒否権を持った人間ではない、と。厳しくいえば、それは他人に責任をなすり付けている態度ともいえます。


記者、カメラマンの「顔」を可視化する

こうした無責任の構造を打破するためには、いかなる選択肢が考えられるのでしょうか。

実際には困難も伴うのでしょうけれど、報道をする際に、記者とカメラマンの「署名」を必ず掲載することにすれば、自由意志と責任感は、ある程度よみがえるのではないでしょうか

事実、ぼくらは宇多田ヒカルさんを「襲った」マスコミの人々の顔がまったく見えません。霊柩車の前に立ちはだかったのは、誰だったのでしょう。宇多田ヒカルさんを突撃した記者は誰だったのでしょう。もしも報道に関わる彼らに「この写真、記事には自分の名前が載るんだ」という自覚があれば、暴走することもなかったかもしれません。

たとえば、ぼく(イケダハヤト)は名前も顔も全開で活動しているブロガーです。そんなぼくが霊柩車の前に立ちはだかり写真を撮影し、「[画像あり] 速報!宇多田ヒカルの母の葬儀に潜り込んできた」なんて記事を書いたら、即刻、読者・社会からの信用を失うでしょう。顔が見えるというのは、そういうことです。


…とはいえ、マスコミ自身の動きに期待するのは現実的に難しいでしょう。市民サイドで何かできることはないのでしょうか。

やや暴力的ですが、カメラマンや記者を物理的に「監視」してしまう、というアプローチはありえるかもしれません。つまり、今回の場合なら、市民が実際に取材現場に行き、冒涜的な取材をした会社やカメラマン、記者を強制的に可視化するのです。「霊柩車の前に立ちはだかったのは○○社の○○という人間だ」という事実が伝わるようになるだけでも、マスメディアを牽制する力になると思われます。

10年後あたりには、GoogleグラスのようなARメガネを使って、誰が来ているのかを容易に「監視」することができるようになっていそうです。マンガ「デスノート」じゃありませんが、記者の近くに行くと、その人の名前と所属がメガネのレンズに表示される、と。市民によるマスメディアの監視は、テクノロジーによってますます容易に、正確になっていくでしょう。


署名にせよ監視にせよ、キーワードは「顔が見えるようになること」です。人間としての倫理を破るのは、取材をしている当人にとっても苦しみでしょうから、こうした状況を破る一手を進めたいものです。ママスコミの逸脱を止めるためのアイデアを思い付く方は、ぜひお考えをコメント欄にてお聞かせください。


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