映画「風立ちぬ」:なぜ? 韓国で公開も「波風立たず」
毎日新聞 2013年09月21日 13時19分(最終更新 09月21日 18時44分)
長編アニメ映画製作からの引退を表明した宮崎駿監督(72)の最新作「風立ちぬ」が韓国で封切られて2週間余り。歴史認識問題を巡り日韓の外交的な緊張が続く中、「ゼロ戦」を設計した堀越二郎が主人公とあって韓国では公開前に物議を醸した。しかし、実際に映画を見た人の受け止め方は拍子抜けするほどあっさりとしていた。なぜなのか。【ソウル大貫智子】
封切り翌日の9月6日、ソウル市竜山(ヨンサン)区のシネマコンプレックスでは、平日の午前中のせいか、客席は1〜2割ほどしか埋まっていなかった。
2時間余りの上映中、韓国では日本の軍国主義の象徴とされる旭日旗(きょくじつき)が登場する場面もあったが、声を上げるような人はおらず、終盤には涙ぐむ女性も。ユーミンの主題歌が流れて終わりを告げると観客は三々五々、静かに立ち去った。
アニメの巨匠、宮崎監督の作品は韓国でも人気が高く、2005年には「ハウルの動く城」が日本映画として初めて観客動員数300万人を突破した。7月の参院選直前には、スタジオジブリの小冊子「熱風」で宮崎監督が安倍晋三首相の掲げる憲法改正への動きを批判したり、元従軍慰安婦の女性に対する補償を訴えたりし、韓国で好意的に報道された。
しかし、ほぼ同時に日本で「風立ちぬ」が公開されると「(ゼロ戦を製造した)三菱重工は朝鮮人を強制連行し、労働力を搾取した」「(映画に登場する)関東大震災で朝鮮人の大虐殺があった」などと、映画を批判的に見る韓国メディアもあった。
このため、7月26日には東京都小金井市のスタジオに韓国人記者を招き、試写会と記者会見を開いて理解を求めたほど。今月6日の引退会見で宮崎監督は、韓国のファンに「いろいろな言葉に邪魔されないで今度の映画も見てほしい」と訴えた。
ところが、いざ封切りされてみると「特に問題になっているという感じはない」(日本大使館関係者)。6日、竜山の映画館に友人と見に来た淑明(スンミョン)女子大大学院の宋恩愛(ソンウンエ)さん(25)に「太平洋戦争を美化しているとの声が韓国内にあるようだが」と質問すると、けげんな表情を見せ「むしろ否定していると思う」ときっぱり。「引退作として『どんなことが起きても生きなければならない』ということを伝えたかったのだと思う」と、感銘を受けた様子だった。