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くらし☆解説 「江戸っ子1号 深海へ」 2013年09月17日 (火)
今井 純子 解説委員
Q)この江戸っ子1号とは?
A)無人で深海を探査する深海探査機です。
(スタジオ:実物大パネル)こちらが、実物とほぼ同じ大きさの絵です。
Q)大きいですね。
A)深海探査機としては、小さいサイズです。本体は、高さ1.5メートルほどの金属の板で、このオレンジ色のカバーの中に、高圧に耐えられる、ガラス球が3つ、はめこまれています。そして、ガラス球の中には、照明器具や3Dのビデオカメラなどが取り付けられています。
Q)誰が開発したのですか?
A)東京下町の町工場の人たちです。円高や不況で、取引先から仕事がもらえなくなってきた中、自ら商品や市場を開拓する力を身につけて、下請け体質からの脱却を図ろう!という狙いで取り組んだのです。
Q)これで、深海を探査するのですか。
A)はい。そうです。この映像は、去年の秋に行われた潜水試験の様子です。
Q)漁船ですか?
A)はい、漁船からでも海に投下できます。これまでの探査機と比べて、飛躍的に「安く、手軽に」、海底を探査できるのが特徴です。実用化されますと、例えば、水産関係の高校や大学の研究室でも、手軽に深海を探査することができるようになるとしています。
Q)海で、何をするのですか?
A)目的は2つあります。ビデオを撮影することと、海底の泥をとってくることです。
こちらが、江戸っ子1号の仕組みです。
機体に、おもりをつけて海底に沈めます。海底に着いたら、ビデオカメラで、海底の生き物の様子を撮影します。ここにエサがあります。
Q)エサでおびき寄せるのですね。
A)はい。エサでおびき寄せて、そこに照明をあてて、撮影するのです。
また、別途、装置が動いて、海底の泥も吸い取ります。
これも簡単な構造なので、表面の泥だけですが、医薬品などに使われる、貴重な微生物の発見につながれば・・と期待されています。
Q)探査が終わったら、どうするのですか?
Q)音波ですか?
A)はい。海の中は、電波は通じにくいので、音波を使います。音波でおもりが切り離されると、ガラス球の中の空気の浮力で機体が、浮き上がり、GPSを使って位置を確認し、船で回収する仕組みです。
Q)仕組みも簡単ですね。
A)ですから、「安く手軽に」、海底の探査ができるようになると期待されています。
Q)どのような映像がとれるのですか?
A)こちらの映像をご覧ください。先月、水深およそ710メートルの海で、江戸っ子1号が撮影した映像です。
Q)これは、カニ?
A)はい。カニとあなごの仲間が、エサを取り合うように食べている様子です。かなり鮮明に見えますよね。
そして、この江戸っ子1号。いよいよ、来週、当初から目標にしてきた、水深8000メートルの深海に挑戦することになりました。
Q)どこの海に潜るのですか?
A)房総半島の沖合200キロメートルあたりの、日本海溝です。今月、22日に、今回は、海洋研究開発機構の大きな船で、港を出て、25日にかけて、3機の江戸っ子1号を海に投入します。
Q)3機あるのですね。
A)今回は、3機用意しました。1機は、5000から6000メートルの海に。残りの2機を8000メートルの海に沈める予定です。これまで、7700メートルの深さで魚類の映像が撮られたことはあるのですが、もしそれ以上の深さで、魚類の映像が撮れれば、世界で初めてのことになるそうです。
Q)楽しみですね。
A)でも、ここまでの道のりは、大変でした。きっかけは、2009年。当時、リーマンショックの後の不況や円高で、取引先が事業から撤退したり、どんどん海外に移転してしまい、みなさん、厳しい経営に直面していました。そのような時、杉野さんが、東大阪市の町工場が参加して、人工衛星「まいど1号」を打ち上げたというニュースを見て、「大阪が空なら、東京は海だ!」。深海探査機をつくって、下請け体質から脱却しよう!と周囲に呼びかけてプロジェクトがはじまりました。
Q)2009年ですか。4年かかったのですね。
A)それぞれが得意の技術を持ち寄りましたが、海洋分野は初めてでした。プロジェクトの発足当初から、海洋研究開発機構や大学、地元の信用金庫と連携してきましたが、それでも、思考錯誤の連続でした。その後、ガラス製造など様々な企業との連携・支援が広がって、ようやくここまで、こぎつけた形です。
Q)町工場の夢がかかった挑戦ですね。うまくいくでしょうか?
A)うまくいってほしいですが、たくさん心配な点があると関係者のみなさんは話しています。主に4つ挙げたいと思います。
まず、狙った8000メートルの海底に到達できるかどうかという点です。江戸っ子1号が、水面から8000メートルの海底につくまでに、3時間かかります。自ら動きませんので、潮に流されます。それも計算に入れて海に入れますが、到達してみたら、水深7500メートル程度だったということもありえない話ではないというのです。
Q)それだと、魚の撮影ができても、世界初にはならないのですね。
A)はい。ただ、話題性はともかく、それでも無事に行って戻ってくれば、「安く、手軽な」無人探査機として、実用化のメドはつきます。
もっと心配な点としては、例えば、ガラス球が、深海の圧力に耐えられるのかという点。
8000メートルの海の水圧は、800気圧。指先に、軽自動車が乗るほどの圧力がかかるそうです。
今回、使うガラス球は、このプロジェクトに向けて、初めて、国産で開発されました。耐圧試験では、大丈夫なことが確認されていますが、自然環境の中で、水圧に耐えられるかどうか、心配は残ります。
Q)ほかの、心配な点は?
A)はい。先ほど、音波で、おもりを切り離す指示を出すといいましたが、8000メートルの深海までちゃんと指示が伝わるか。
さらに、水面に浮上した後は、GPSを使って、位置を確認して回収しますが、最後は、望遠鏡で探します。広い海で、小さな江戸っ子1号を、見つけることができるのか。特に、波が荒いと心配です。
このように、心配はきりがないと、関係者の方たちは話しています。
Q)成功するといいですね。
A)成功すると、水産関係だけでなく、地層の調査など、さまざまな分野に向けて、商品化の夢がつながります。また、参加した町工場にとっては、プロジェクトを通じて開発した技術や、部品・素材でも、新たな販路の開拓につながります。日本経済は回復してきていますが、町工場にとっては、厳しい経営環境が続いています。下請け体質からの脱却、そして、町工場の飛躍につなげるためにも、江戸っ子1号の挑戦。ぜひ、成功してほしいと思います。