GOYAKOD

2013-01-09

我に返るスキマを埋めろ!!

theピーズというバンドがいる。
大木温之というベースヴォーカルがリーダーの、ドクターフィールグッドとビートルズキャロルを下敷きにした、実にストレート・ア・ヘッドなロックンロールバンドである。
彼らはとても人気があり、もちろん私も大好きである。愛しているといっても過言ではない。ひょっとしたら世界で一番ピーズを愛しているのは自分ではないかと、他のピーズファンと同じくらいのこじらせ方を私もしている。
大木温之(以下ハル)の書く歌詞はなんというか、どん詰まりのスケッチというか、破滅したいのに破滅しきれないもどかしさを歌ったブルースというか、とにかく独特である。彼の本来の言語感覚の為せる業なのだろうが、千葉弁が入ってくる内面世界さらけ出しなリリックに最初はとまどう人も多い。まあ、基本は自分語りなのだが、ハルの詩には常に自分への徹底して冷めた視線があり、そこにバシバシと打ち抜かれるアホ共が後を絶たないってわけだ。私のような。
もともとはバカロックやポコチンロックという、なんともありがたくないキャッチで出てきた彼等だが(ハルはそのことがかなり不快だったようだ。まあ、当たり前か)(初期の実にアホみたいな歌詞の数々<もちろん褒めてます>を考えるとまあ、それもしょうがないかとも思うのだが)(しかしライヴで毎回確実に盛り上がるのは間違いなく初期の曲である)、今やあらゆる文化人のハートを打ち抜くまでになったというのを考えると、なんだか実に感慨深い。感慨深いというか、嬉しい反面ちょっと複雑な思いもあったりする。評価されているんだから、素直に喜べばいいのに...。
ピーズファンはそんなアホばかりである。私のような。

とどめをハデにくれ

とどめをハデにくれ



前振りはここまで。
ハルには大木知之という一卵性双生児の兄弟がいる。
知之(以下トモ)はもともとカステラというバンドでデビューし、その後はトモフスキーという名義で活動している。一卵性双生児だけあって、当たり前だが容姿は激似である。ピーズ界隈のミュージシャン仲間の間では、ライヴハウスでハルとトモを間違えるという経験は必ず通る道だとシンイチロウ(ピロウズ/ピーズ)がインタビューで言っていた。
しかし私は、というか一部のピーズファンも多分そうだと思うのだが、大木兄弟のトモの作品はあまり通ってこなかった。恥ずかしながら。
最大の原因はカステラである。「ビデオ買ってよ」というカステラ初期の代表曲があるのだが、当時カステラ餃子大王人間椅子などその当時のバンドブームを特集したドキュメント番組があり、その中でカステラはその曲を演奏していた。付き合ってる(と思われる)OLにビデオ買ってよとねだる、まあ実にたわいもないパンキッシュなナンバーで、まあ正直に言えばそこでそんなにはまれなかったのだ(というより、その番組に出ていた餃子大王の方にはまってしまった)。
なので、ピーズはグレイテストヒッツからキャリアを追ってきっちり聴いていたものの、トモはカステラを聴かなかった延長でトモフスキーも完全にスルーしていた。ハルと双子の兄弟だという前提は知っていたものの、私の中では「ビデオ買ってよ」の人というイメージが更新されずにずっといたままだった。

ピーズ20周年のライヴを観に行った時(ちなみに昨年は25周年だった)、「シニタイヤツハシネ」というピーズの代表曲の一つでゲストヴォーカルにトモが出てきた。おそらく私の人生で、ステージにいるトモフスキーを観たのはこの時が初めてである(ステージじゃないとこでは、それこそピーズのライヴ会場だとか、MTハピネスを年末にやってた時の下北沢の駅だとかでみかけたりしていた)
後半の歌詞がまるで分かっておらず、最後はひたすらでんぐり返しをするトモはとにかくひどく(もちろん褒めてます)しこたま笑わせてもらった。
そして時が経ち、一昨年の12月に下北沢QUEで行われた大木兄弟生誕記念ライヴ。
ピーズとトモフスキーバンドが対バンということで観に行くことにした。ちなみにトモフスキーバンドのバックはサードクラスという、大木兄弟界隈でお馴染みのバンドがつとめており、更にはベースはハルが弾いている、という理由も大きかった。
まあ、正直トモフスキーにはあまり期待していなかった。何曲か観れればいいやという思いでトモフスキーバンドの途中から入った会場は人でパンパン。大木兄弟、やっぱりすげえ人気だなーと、ビールを啜りながら観ていた時に流れてきたのがこの曲だった。

D

最初に聴いて、なんて歌詞なんだ!!と思った。
完全になめていた。だからこそ、完全に撃ち抜かれた。
「我に返るスキマを埋めろ」だぜ?
これ以上にロックンロールを言い表している言葉があろうはずも無い。
ホンキートンクピアノと、ひたすら跳ねるリズム!!ハルは本当にこういうベースが得意だなー!!
われにーかえるーすきまーをーうーめーろー
その後のピーズを堪能し、大木兄弟の寸劇のようなセッションも堪能し、大満足の帰り道。しかし、頭に流れるメロディはずっとこの曲だった。
我に返るスキマを埋めろ、という言葉を脳内で何度も何度も反芻していた。

それでも!!
それでもまだ完全なブームは私には来ていなかった。
バンド関係の友人達には「いや、トモフスキーにこんなすげえ曲があってさー」という話はしつつも、それでもまだ手は出せなかった。
昨年、某SNSで知り合った友人が、トモフスキー昔好きだったという話をしてた折、んじゃ「我に返る..知ってる?」という話になった。
トモフスキーの初期しか聴いていなかったその友人が現在のトモフスキーをおいかけ始め、上のPVを教えてくれ、最終的にその友人から初めてトモフスキーのキャリア全般に対してのレクチャーを受けることになった。
トフスキー凄い...
数々の音源を聴いて真っ先にでてきた感想はまずそれであった。
トモ凄い!!俺は全然分かってなかった!!

何よりびっくりしたのは意外なまでの音楽的語彙の豊富さであった。
ハルのロックンロール偏食ぶりに比べると、トモはもっとたくさん食べてそれを血や肉にしてきているのが良くわかる。
ビーチボーイズドアーズ的な語彙は、大木兄弟の中でも確実にトモにしかないものだ。そして圧倒的なまでのビートルズに対する偏愛。ハルもビートルズ至上主義者ではあると思うのだが、ハルのそれがロックンロール的な手法に特化しているのと比べると、トモの場合はもっと実験的な部分やサイケデリックな部分が特化されている。まあ、一人トモフなど基本的に宅録主体の活動を余儀なくされているミュージシャンであるが故、というのもあるのかもしれないが、ここまでくるとそれはあくまでも理由の一部でしかないだろう。
そして歌詞がまた素晴らしい。
以下は代表曲の一つ、ワルクナイヨワクナイの歌詞の一部である。

眠れないワケは 眠たくないから / 食べたくないワケは それがマズイから / ウマが合わないのは そいつが悪いから / 病気がちなのは 病気が強いから
僕はワルクナイヨワクナイ
僕はこのままでいい

彼の歌詞は大半に於いて、このような完全な自己肯定を前提としたものが多い。まあ自己肯定というのは奇麗な言い方で、要は完全な自分勝手ソングである。世界とうまくやれないのは、けっして世界のせいではなく、あくまで自分にあわせてくれない世界のせい!!僕は悪くないのに!!
大半の引きこもりソングというのは世界に対しての敗北を意識するところからはじまる。世界に対しての怨嗟の声をベッドルームからあげていくと、それはどうしてもディストーションやハーシュノイズで満たされがちだ(昨今はそれが臨界点を超えてドリーミーな音像になってたりする)
しかし、トモフスキーは違う。彼の曲には不思議とルサンチマンは一切感じられない。何故か?
キングオブ引きこもりにとって、世界とは闘う前提のものではではなく、むしろ自分自身が世界の中心として存在するという前提からはじまっているのだ。
自分自身を絶対肯定することにより、世界というものはとたんに姿を変えるのだ。
それだけを歌う。それだけをただ歌う。
一人部屋で天井を眺めながら。一人自転車で夜中に徘徊しながら。三拍子のリズムにあわせて。
もちろん、そんなの不安にならない訳がない。生きてりゃ税金は払うし、家賃は払うし、社会的規範にのっとった生活というのをどうしても強要される場面は必ずある。むしろそんな場面だらけであろう。
だからこそ「我に返るスキマを埋め」ないといけないのだ。
永遠にぶっ飛んでいないと、全てが間違いかもしれないと思ってしまうかもしれない!!散らかして、散らかして、決して整理なんかしちゃいけない!!

芥川賞作家にして、文化人の中でも無類のピーズ好きとして知られる絲山秋子(ピーズのアビさんの後輩である)は自身のホームページの質問コーナーに於いて、読者からの質問「トモフスキーの曲で一番好きなものとその理由を教えて下さい」に対して「<我に返るスキマを埋めろ>これは思想、哲学ですよ。素晴らしい」と、回答している。(第二回インタビューの質問158)
さすがピーズの曲が作中に登場する、メンヘラ男女のロードノベル「逃亡くそたわけ」を書いた作家である。
これは思想であり哲学なのだ。

逃亡くそたわけ (講談社文庫)

逃亡くそたわけ (講談社文庫)



昨年のクリスマスイブには、遂にトモフスキー渋谷のワンマンに行ってきた。
三時間近くやりきったライヴはサービス満点!!というか、満点すぎ?(笑)
もちろん、私が一番楽しみにしていた「我に返る...」もきっちりやってくれた。
我に返るのPVでは、観客女の子が手でオッケーのサインを掲げるシーンがカットアップで何度も挿入される。
私はあのシーンがとても大好きなのだが、実際のライヴでも沢山の女の子がオッケーのサインをかかげていた。
トモフスキーの思想や哲学に救われている女の子たちよ、我に返るスキマを埋めていくのだ!!
世界とは君自身なのだからね!!

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