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【社会】下町探査機 あす海底8000メートルへ 「江戸っ子1号」初仕事2013年9月21日 13時56分
東京・下町の中小企業チームが開発した無人海底探査機「江戸っ子1号」が二十二日、房総半島沖で海底八、〇〇〇メートル地点の調査を開始する。オール国産と低コスト化にこだわった町工場の技術と夢を、約五十キロの機体に積み込み、未知の海域に挑戦する。 (臼杵秀之) きっかけは、大阪の町工場などが二〇〇九年一月に打ち上げた小型衛星「まいど1号」。「町工場として負けてられねえ。大阪が空なら、東京は海だ」。杉野ゴム化学工業所(東京都葛飾区)の杉野行雄社長(64)の呼びかけで、同五月にプロジェクトが始動した。 中心となったのは都内と千葉県の五社。プラスチックの金型設計、耐圧ガラス製造、精密機械の加工など得意技術を持ち寄り、四年かけて研究。海洋研究開発機構や東京海洋大、芝浦工業大も協力し、神奈川県・相模湾などで実験を繰り返した。 最も難航したのは、機材を収めるガラス球。当時、海底八、〇〇〇メートルの水圧に耐えるガラスを製造できるメーカーは米国とドイツにしかなかった。しかし、杉野社長には日本のものづくりを支えてきた意地がある。「なんとしても国産で」。頼む端から断られ続ける中、一二年末、千葉県柏市の岡本硝子(ガラス)が手を挙げた。プロジェクター用の反射鏡では世界シェアの半分を占める創立八十五年の老舗は、わずか十二ミリの厚みで水圧に耐えるガラス球を創り出し、純国産の夢をつないだ。 完成した江戸っ子1号には、全長一・七メートルのアルミフレームに、直径三十三センチの耐圧ガラス球が三つ。それぞれ照明、無線信号変換、撮影の役割がある。微生物を含む海底の泥を採取する採泥器、深海魚の生態などを撮影する3Dビデオカメラなども備える。 将来の商業利用に向け、開発費の圧縮も目指した。この規模なら三億〜四億円かかると言われたが、汎用(はんよう)部品や廃材を使うなどし、目標の二千万円に近づけた。「世界的にもこれだけ安価な探査機はない」と杉野社長。 海洋研究開発機構の調査船で房総沖二百キロ地点へ運び、海に投入。自重で三時間かけ海底八、〇〇〇メートルに沈み、十時間探査。重りを切り離し、再び三時間かけて海面に浮上する。成功すれば、日本近海に眠る資源の、産業への活用に道が開ける。杉野社長は「ワクワクと不安が半々。みんなが手弁当でこれだけの努力をしたのだから成功を確信しています」と力を込めた。 ◆低コスト商用化に道 日本は領海と排他的経済水域を合わせた海域面積が世界六位。近海にはコバルトやマンガンなど希少な金属資源が豊富であることも明らかになり、調査の重要性が増している。 魚類撮影の世界最深記録は、英国の研究グループの七、七〇〇メートル。八、〇〇〇メートルで成功すれば世界記録となる。深海のバクテリア研究は医療への応用も期待されている。 日本の公的機関が持つ探査機では、海洋研究開発機構の無人探査機「かいこう」が有名で、マリアナ海溝で計測に成功した一〇、九一一メートルはギネス世界記録。ただ、研究開発費は五十四億円。二千五百メートル級の輸入深海探査機も約四億円と高額で商業利用は難しかった。 製作費二千万円台の江戸っ子1号が実用化されれば、資金面から民間には難しいとされてきた深海探査の常識を覆すことになる。 (東京新聞) PR情報
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