台風18号水害の被害状況が、日を追うごとに明らかになってきた。築堤に伴う集団移転後の被災で注目が集まる戸田地区から南西に少し離れた土地区は、住宅の大半が浸水する大被害を受けていた。被災情報が外部に伝わっていないという孤立感を抱えて4日間を過ごした住民たち。少ない人手で泥出しなどの復旧作業が続き、疲れ果てている。
■浸水家屋市内最多、でも少ない人手で泥出し■
市がまとめた被害状況(19日午後4時現在)によると、浸水家屋数が一番多い自治会が土と判明した。しかし、被災後から3日間は、土が大被害を受けたという情報が市民の耳に入ることはほとんどなかった。
20日に集落を訪れて出会った住民たちが最初に口にする言葉は「なんで土が被災したことが、どこにも伝わっていないの?」だった。
約140戸のうち約100戸が浸水した。住民の証言によると、由良川からあふれた水と、別方向からの内水とに挟まれて水が一気に増したという。9年前の台風23号の時より水かさが50−60センチほど上がり、床上浸水は約70戸で集落の半数にのぼった。
床上1メートルを超えた家もあり、あたりは濁流の海に様変わりした。そんな情報が地区外に伝わらないまま、なんとか親戚や知人の手を借りて、住民は復旧作業に追われた。
70代の2人暮らしの夫婦宅は、9年前は床下浸水だったが、今回は驚くほど早く水が上がってきた。2階に貴重品を運び上げようとしたがパニックに陥った。2人とも高齢で体も思うように動かない。気付いたら役に立たない食品ラップを2階に運んでいた。車を移動させようと腰まで水につかりながらガレージに向かったが、流れてきた大きな保冷庫が衝突して車は大破。呆然とするしかなかった。
自宅が床上90センチに達したという女性(75)は「本当に怖かった。テレビも新聞も誰も、土のことを言ってくれない。忘れられてるんじゃないかと思った」とつぶやいた。頼みの息子は仕事に出かけたまま浸水で帰宅できず、タンスなどの重いものは持ち上げられなかった。収穫したての新米も泥にまみれた。
水を吸った重い畳を数十枚運び出した男性(76)は「疲れた」とぽつり。自宅の片付けのめどが立ったので、次は畑の整地に足を運んだ。
女性(86)の農機具小屋は、身長を超えそうな1メートル以上の水がついた。農業機械は全滅。自宅は若い家族に任せたが、「私も動けるから、何かやらないと」と、農機具小屋の泥出しをした。「滑って転んだら終わり。びくびくしながらだった」と振り返った。
田中権一自治会長(65)は「土の集落は府道から見えにくく、地図に表示されないこともしばしば。だから目に留まらなかったのかもしれないが、被害は大きかった。治水対策をしっかりしてほしいという思いは、他の被災地区と同じだ」と話していた。
写真=浸水する土の集落(16日午前7時40分ごろ)
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報道する側は、とかく目の前の「派手な現象」に目を奪われがちになる。消防のボートによる被災者救出が行われ、以後多くの報道陣が詰めかけた地域と、道路を挟んで反対側に位置するのが土集落。孤立感を住民に感じさせてしまった一端がわたしたちにある。自戒を込めて取り上げた。
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