サイエンスカフェ:「科学者ではない」
毎日新聞 2013年09月12日 東京朝刊
最近、取材で「私たちのことを理解してくれているようですね」と複数の研究者から言われた。「科学者としての立場や思考回路を分かっている」という意味だと解釈したが、内心、「これはまずい」と感じている。
アレルギー体質に苦しんだ根源を知りたくてサイエンスを扱う現在の科学環境部を希望、東京と大阪で勤務して11年になる。しかし学生時代、文学部哲学科社会学専攻だった私にとって、当初は取材対象者の言葉が「宇宙語」にしか聞こえなかった。科学的な内容より「理系の研究者とはなぜ、こんな考え方、表現をするのか」と理解不能な日々が続いた。だが、やがて「科学者とはこんなもの」と自分の中で折り合いをつけ、取材するようになる。そこに慢心がなかったか。
科学記者は、科学者ではない。その他の分野でも同じことだが、「あなたの言っていることは、あなた以外の世界では通用しませんよ」と指摘することも、私たちの重要な役割だと思う。そのことを改めて肝に銘じ、今後も仕事を続けたい。【江口一】