【フィギュアスケート】「選手としての挑戦」。安藤美姫が世界選手権で表現した思いと葛藤
2011.05.02
- 青嶋ひろの●取材・文 text by Aoshima Hirono このライターの記事一覧 能登 直●写真 photo by Noto Sunao(a presto)
安藤美姫は、コミュニケーション能力の高い選手だ。今、置かれている状況、抱いている気持ちを、記者や周囲の人々に、自分の言葉できちんと説明する。
長いスケーター人生で、ときにはつらいこともあったため、日本のメディアへの態度はいつもフレンドリーとはいえないかもしれないが、ひとたび記者の前に立てば、勝っても負けても、調子が良くても悪くても、豊かな言葉で自分と自分のスケートを語ることができる。
よく泣き、よく笑う、エモーショナルな性格ゆえ、という面もあるだろう。もちろん相手は報道陣に限らず、家族であり、友人であり、またファンサイトやツイッターを通じてメッセージを送るファンであったりもする。スケートにおいてもコーチや振付師たちとたくさんのことを語りあい、深い関係を築き上げている。
そんなふうに言葉を交わし合うことでまとった心のひだが、今の美しい安藤美姫のパフォーマンスをつくりあげたということは、言うまでもない。
そして今回、東日本大震災によって続いている非常事態が、大舞台の世界選手権と重なった。
感情豊かで、人の心を思いやる彼女もまた、今回の出来ごとに大きなショックを受けていた。財産や大切な人を失った人々がたくさんいるのに、自分はいつも通りの練習を続けていてもいいのか――。
フィギュアスケート界では、被害の大きかった東北にあるリンクが使えないのはもちろん、ほかにも千葉県の「アクアリンクちば」の敷地は液状化、東京の「明治神宮外苑アイススケート場」の天井が一部崩落した。多くのスケーターが練習リンクを失い、残された数少ないリンクが選手であふれかえる事態にもなっている。
一方で、今回の世界選手権のシングル代表選手たちは、6人とも中部あるいは、関西に拠点があり、関西大学、中京大学のリンクを使って練習ができている。友人であるスケーターたちも不自由にあえいでいる東日本の状況と自身を比べて、鬱々となることも多かったのだろう。