ガレキの中から和服を拾い集め、洗って材料にした小さな人形や小物袋。津波で塩の被害を受けた杉の木をカットし、ビーズと合わせデザインした携帯ストラップ……。被災地発の小さな手芸品が、地元にできた仮設店舗のお土産コーナーや、インターネットで販売されています。被災地を支援するグループの手によってほかの地域へ運ばれています。手芸品は、東日本大震災で被災した人たちの生活を少しでも取り戻すための手段でもあり、被災地以外に住む人にとっては、被災地に想いを馳せるためのグッズでもあります。

 仮設住宅の集会所に女性たちが集まり、お茶を飲みながら手仕事を楽しむ。わずかな収入ですが、加工で得たお金は、孫にプレゼントを買える喜びに変わることもありました。手仕事は、仮設住宅の新しい人間関係を育む中で「ひきこもりをつくらない」「生きがい探し」など、収入を得る以外の意味合いが強く、これまでの被災地と新たな被災地を結び、被災地と被災被以外に住む人をつなぐ役割も果たしてきました。しかし、売り上げは多いとはいえないうえ、被災地への関心が薄れると一気に売れなくなるといった悩みを抱えています。そんな中、手芸品を商業ベースに載せる試みがありました。「浜のミサンガ 環(たまき)」プロジェクトです。
 
 手首や足首に巻き、自然と紐が切れたときに願い事が叶う、そんな縁起担ぎの意味を持つカラフルな組み紐「ミサンガ」。日本では、サッカー選手がチームの勝利を願って身につけたのを火付け役にブームとなりました。東日本大震災では復興のモチーフとなって、個人やいくつかの団体が制作しチャリティ販売しました。そして「浜のミサンガ」は、「ミサンガ」を被災地の生業支援に結びつけたのです。震災から数ヶ月後、三陸の浜の女性たちが漁網を材料にミサンガを編んで暮らしの再生につなぐようすを映す、温かなテレビCMが流れました。コピーは、「仕事がある。笑顔になれる。」です。

 プロジェクトは、これまでの手芸品販売ではみられなかった数を売り上げ、販売を開始した2011年6月から一年間で総額1億円を被災地にもたらしました。一般的に、手芸品の販売価格はひとつ500円から1000円。1000個売れても売り上げは100万円です。プロジェクトの収支報告をみると、販売価格1100円のミサンガを約15万個販売しています。ケタ違いです。先月、日本災害復興学会福島大会のパネリストとして登壇した、仕掛人のひとり大手の広告会社博報堂の南部哲宏さんの報告で、販売にはさまざまな支援があったことがわかりました。

 震災後、テレビでは、自粛のために企業コマーシャルがほとんど流れなくなりました。プロジェクトは、前述の印象的なビデオCMをここに流しました。空いてしまった放送枠ということもあり、テレビ局の協力も得て無料で放映できたそうです。公共広告機構のCMのような扱いをしてもらったのです。新聞にも次から次と取り上げてもらいました。一方で、信頼を落とさないように、製品の品質管理にも気を使って売り上げを維持したといいます。広告会社の手法があってこその「発信力」と「商品のブランド化」で、支援したいと思う人たちの気持ちを集めることができたのでしょう。

 その運営方法もここに来て変化を見せています。震災から一年半がたった9月、作り手さんへの賃金配分を、売り上げ全体の52.4%から45.5%に下げました。プロジェクトのホームページを見ると、こうあります。熟練した作り手さんは時給が1000円を超える賃金になっていて、それが本業復帰の妨げにならないかを考える必要がある。「つくることを支援する」事業から、「小さくても地域の正業になる」事業へスライドさせるため、「売る」コストにも配慮したと。また、南部さんによれば、ミサンガの作り手さんたちは、一部の方々を残して卒業してもらい、例えば「ノーモア津波」の学習場所を想定した被災地ツーリズムの活動や、食堂の経営など地元の新たな産業へ活躍の場の移行を促しているそうです。

 手芸品の販売には限界があり長く続くものではないという、手芸品による被災地の仕事づくりが抱えていた悩みを、ビジネスの目を持って運営すると、こんな風に展開するのかと感心しました。「人と人をつなぐ」効用をより多く求めるならば、従来通りの方法がよいでしょう。「生業へつなげる」ことを意識するならば「浜のミサンガ」方式のようなものが必要なのかもしれません。資金、物資の支援、人材面。東日本大震災では、多くの人や企業が被災地の支援をしています。自分たちだから出来るノウハウやアイディアを、地元の想いを大切にしながら、被災地に生きる人たちを補うように応援してゆく。被災地の外から力を使い支援できる方法は、まだまだありそうです。

魚住由紀(うおずみ・ゆき)
フリーアナウンサー/防災・復興コミュニケーター。MBSラジオの災害情報番組「ネットワーク1.17」のパーソナリティを17年半勤める。特別番組「ネットワーク3.11」では東北と関西のリスナーを結んだ。被災地の痛みや知恵を伝え、地震の専門家と市民をつなぐ。フォーラムの司会やコーディネーター・防災セミナー講師・取材リポート・「高田松原ものがたり」の朗読活動などを通して震災と防災を発信。