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ワールド&インテリジェンス

ジャーナリスト・黒井文太郎のブログ/国際情勢、インテリジェンス関連、外交・安全保障、その他の雑感・・・

相手にされないブラヒミ調停

▽シリア反体制派に妥協求める ブラヒミ氏とロシア外相(朝日)
「ブラヒミ氏は会談後の記者会見で『政権交代が必ずしもシリアの危機を解決することになるとは思わない』と述べ、アサド大統領の即退陣を求めている反体制派が歩み寄る必要があるとの認識を示した」
「ブラヒミ氏はアサド政権と反体制派の双方で移行政府を樹立することや、次の大統領選まではアサド氏が政権内にとどまることを提案した。しかし、アサド氏はこれを拒否したという」
「反体制派はアサド氏の出国が保証されなければ政権との対話には応じない構えで、双方の隔たりは大きい」
だそうです。
 当ブログ既報のとおり、ブラヒミはシリア国民(体制派除く)から総スカン状態にあり、まったく相手にされていませんが、それがお気に召さなかったのかもしれません。
 戦局は自由軍の攻勢が続いており、政府軍からは憲兵隊長(中将)まで離反しています。平和維持軍の大軍を投入しての停戦ならまだしも、アサド軍統治による停戦など妄想以外の何物でもありません。これでシリア国民サイドからの猛反発は必至で、ブラヒミ退場も時間の問題でしょう。
 ちなみにブラヒミはダマスでも「反体制派」に会っていますが、彼らは要するに「国民虐殺中の独裁政権の手の中で存在を許されている『反体制』派」であって、実際にはシリア国民の大多数に相手にされていません。
 政治活動のコアとしての国内各都市の革命調整委員会、実力組織としての自由シリア軍、対外窓口としてのシリア国民連合・・・シリア国民を代表するのは、あくまでこうした組織ですが、ブラヒミはやっぱり相手にされていません。

 ちなみに、今週の金曜恒例デモは「血まみれのパンの金曜日」でした。

(追記)
 ちょっと思い出した点があるのでひとこと。
 一昨日の池上解説もそうでしたが、「アメリカがシリア介入に消極的なのは、石油利権がないから」との解説を散見します。いかにももっともに見えますし、そうした要素が大きいのは私も同意しますが、それがすべてと言わんばかりの陰謀論は単純すぎる見方と思います。
 アメリカは今でも最大・最強の世界警察ですが、アフガン、イラク戦で多大の自国民兵士の犠牲者を出し、さらにイスラム社会で大きな批判を受けて対米感情の悪化をもたらした面もあったことから、「自国民兵士の犠牲を極力出さない」「国際的な反米世論を喚起しない」ということが軍事行動の絶対条件になっています。
 なので、きちんと地元反体制派の要請および国連安保理やアラブ連盟の承認があれば、地上軍派遣以外の軍事行動(飛行禁止措置や空爆作戦、地元革命勢力への軍事支援など)くらいはやります。リビアとシリアの差の最大要因は、ロシアと中国の安保理拒否権です。
  1. 2012/12/30(日) 07:33:46|
  2. 未分類
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  4. | コメント:7
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コメント

 今年一年たいへんお世話になりました.
 来年も宜しくお願い申し上げます.

 さて,逆に言いますと,現状,シリア内戦の仲介役として望ましい条件とは,どんなものなのでしょうか?
  1. URL |
  2. 2012/12/31(月) 01:42:37 |
  3. 消印所沢 #-
  4. [ 編集]

アサド政権の空軍機がシリアの一般市民を爆撃していますがミグを操る中には北朝鮮からのパイロットがいるようですね。

自国民を殺戮する為に外国人のパイロットを呼ぶ政権と停戦?やはり、ありえないのではないでしょうか。

ちなみに北朝鮮は第四次中東戦争時にエジプトにミグのパイロットを送りイスラエルと死闘しています。
http://www.youtube.com/watch?v=SWkDihJYLE4
  1. URL |
  2. 2012/12/31(月) 04:20:47 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

道楽Q様 シリア軍と北朝鮮との協力関係から見れば、空軍への軍事顧問も当然いると思いますが、実際に本人たちが出撃しているかどうかは、まだ撃墜されたり捕虜になったりしてエビデンスが出ていないので、私にはなんともわかりません。
 もっとも、リビア内戦でシリア空軍操縦士がカダフィ軍に助っ人参加したこともありますし、彼らの常識ではとくに奇異なことではないのだと思います。
  1. URL |
  2. 2012/12/31(月) 12:40:36 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

明けましておめでとうございます。旧年中は貴ブログ記事で大変勉強させて頂きました。

北朝鮮のパイロットについては昨年十月のハ=アレッツ紙電子版の記事にありました。何でも撃墜された戦闘機に北朝鮮のパイロットがいたという目撃があったという記事でした。

念の為にその記事(複数)を探したのですがヘブライ語版は残っていたのですが英語版は消えていましたので悪しからず。
  1. URL |
  2. 2012/12/31(月) 15:17:39 |
  3. 道楽Q #-
  4. [ 編集]

こちらこそ、イスラエル情報を中心にいろいろご教示いただき、ありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします
  1. URL |
  2. 2013/01/02(水) 11:31:30 |
  3. 黒井文太郎 #-
  4. [ 編集]

一九七三年の第四次中東戦争でイスラエル空軍がエジプトで北朝鮮のミグ21と対峙。

Israeli F-4s Actually Fought North Korean MiGs During the Yom Kippur War
http://www.businessinsider.com/israel-north-korea-dogfight-yom-kippur-war-2013-6

同戦争で情報大国イスラエルにして国家存亡に関わるインテリジェンスの致命的欠陥が明らかになったが、これは後のイラク戦争に於いて米国の各諜報機関が政治指導者に「オイシイ情報」のみを供給する様に能力低下した事と共通。

(オカルト的陰謀論者は国際金融マフィア=フリーメーソン=CIAなど英米諜報機関万能説を垂れ流すが、地震兵器とか無意味な推測を聞く疲れる。具体性ゼロなのが特徴)。

上記にイスラエル空軍パイロット達が北朝鮮軍のミグと対峙しているとは当時知らなかった事が報告されているが、陰謀論者はこの様な具体的詳細に興味を示さない。其れ故に話が永久に平行線で時間の無駄。宗教と同じ。

因みに二〇一〇年にイスラエル海軍の特殊部隊がガザ地区へ向かうトルコ人道支援船の暴徒を速やかに鎮圧出来ずに虐殺(といっても十人ポッキリ)した事件があった。

同部隊がエレガントに鎮圧出来無なかったのは諜報機関が充分インテリジェンスを供給しなかったから。事件後に同海軍はモサッドの怠慢を追求。

もしも諜報員が予め同船に乗っていれば鉄パイプやナイフなどが持ち込まれている状況に適切に対処する事が出来て虐殺を防ぐ事が出来た。こういうのが正当な情報要求でしょう。

元々緊張があったイスラエルとトルコの外交関係が事件後に決定的悪化した事を考えれば諜報機関の失敗。以降トルコのエルドアン首相はイスラエルを牽制する為にシリアとイランに急接近。今から見ればナンダカナと大いに笑える。

下記はイスラエル警察特殊部隊『ヤマーン』がエルサレム旧市街のイスラム聖地アル=アクサ・モスクで暴徒鎮圧する貴重な資料。死者ゼロというのはモラルの高さ以上にメディアに晒される続ける西側機関が宿命的に積み上げた技量が有る。残忍残酷で皆殺しが三度の飯より好きな暴君アサド君も敵国に見習うべき。
http://www.youtube.com/watch?v=eggXnkIxV1s
http://www.youtube.com/watch?v=lksZI69Og7k
  1. URL |
  2. 2013/09/21(土) 01:57:57 |
  3. 道楽(どら)Q #-
  4. [ 編集]

話がそれた(笑)のでエジプトに戻ると、元外交官の野口哲也氏が北朝鮮諜報機関とエジプトの関係を以下の様に解説。

「同じ頃(六十年代)、カイロでも特に外国の外交官に対する盗聴が盛んで、日本の外交官も軒並み自宅でやられていましたが、ある日有名な情報機関をもっている西側大使館館員と話をしていて、どうせ日本語を盗聴してもエジプトに理解できる人材は殆ど居ないと思うが、と聞いたところ、片目をつむり、エジプトの情報機関では北朝鮮人が働いているんだよ・・北朝鮮にとっても貴重な情報になる由・・と教えてくれました」と何処に罠があるか分かりません。
http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/4049735.html

現在エジプトは親米という事になっていますが、北朝鮮で成功している携帯電話はエジプトの会社。つまり、七十年代の関係は切って無い。
http://toyokeizai.net/articles/-/14484

さらにクーデター後の親イスラエル&サウジ軍事政権の「エジプトのベブラウィ暫定首相は先月20日の米ABCテレビとのインタビューで「かつてエジプトがロシアの軍事援助で生き延びたことを忘れないでほしい」と述べ、対エジプト軍事援助の停止を求める米国内世論をけん制し、ロシアへの接近をほのめかした」ので超間抜けなオバマも流石に動揺。
http://mainichi.jp/select/news/20130906k0000m030074000c.html

今後エジプトは一方で米国製戦闘機で武装しながら、もう一方で核開発で北朝鮮カードをチラつかせるかもしれない。
  1. URL |
  2. 2013/09/21(土) 01:59:16 |
  3. 道楽(どら)Q #-
  4. [ 編集]

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黒井文太郎

Author:黒井文太郎
 63年生まれ。『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、現在は軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(とくにイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。

 著書『ビンラディン抹殺指令』『アルカイダの全貌』『イスラムのテロリスト』『世界のテロと組織犯罪』『インテリジェンスの極意』『北朝鮮に備える軍事学』『紛争勃発』『日本の情報機関』『日本の防衛7つの論点』、編共著・企画制作『生物兵器テロ』『自衛隊戦略白書』『インテリジェンス戦争~対テロ時代の最新動向』『公安アンダーワールド』、劇画原作『実録・陸軍中野学校』『満州特務機関』等々。

 ニューヨーク、モスクワ、カイロに居住経験あり。紛争地域を中心に約70カ国を訪問し、約30カ国を取材している。




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