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【コラム 月刊猪瀬直樹】

東京五輪は日本を変える一里塚

2013年9月21日

◆スポーツの力で

 東京に五輪を招致できて、心が晴れ晴れしている。スポーツの力で何年も失われてきた日本の活力を取り戻し、心のデフレを払拭(ふっしょく)できる。

 だが、僕自身が考えてきた真の招致成功の意味は、世界最高のスポーツの祭典を東京で開く栄誉や、東京、日本の力を世界に示す好機という以上に、日本の構造改革をスタートさせられることだ。五輪は開催そのものが一つの目的ではあったけれど、それがすべてではない。五輪を一里塚にして、日本全体を変えていく、というのが僕の発想だ。

◆縦割り弊害の解消

 最も大きいのが縦割り行政の解消、省益至上の官僚主義の解消だと思っている。今回の招致成功で僕は何度も「オールジャパンの勝利だ」と言ってきた。経済界、スポーツ界のほか、五輪を担当する文部科学省、パラリンピックの厚生労働省、外交交渉を担う外務省、それに宮内庁、内閣。特に役所では、それぞれが管轄するピラミッド型の行政システムが、過剰な縄張り意識を生み、互いに情報を隠し、国家戦略として「何をしたいのか」がさっぱり分からない状態が続いてきた。復興庁が有効に機能していないのは縦割りの弊害そのものだし、さかのぼれば太平洋戦争突入の決断だって、その最たるものだ。

 僕は著書「昭和16年夏の敗戦」(中公文庫)で東条英機内閣が開戦直前、ひそかに省庁や陸海軍、民間の若手エリートを横断的に集めて日米開戦のシミュレーションをさせた総力戦研究所の姿を描いた。それぞれが組織の資料を持ち寄って分析し「必敗」と結論づけた。だが、報告は握りつぶされて戦争回避につながらず、戦況はほぼ分析した通りに推移した。縦割り官僚国家の中枢がまったく機能しなかったわけだ。

 それが今回、五輪招致で、できた。情報を共有し、一つの目標のために力を合わせた。日本の中枢が機能を取り戻し、国家として勝った。僕が言ったオールジャパンとはそういう意味だ。大げさでなく、近代日本史上、まれにみる快挙だった。

 中枢が機能すれば物事は前に進む。被災地で、福島原発で何をすべきで、どう動けばよいか。招致成功は意思実現のモデルになったはずだ。あとは成功の経験を、官僚がどう生かすか、だ。

◆スピード感を持ち

 一里塚の意味はもう一つある。2020年は、ものごとを成し遂げる目標になる。例えば海外からの観光客誘致では空の玄関の整備だ。羽田の国際線を増便するほか、米軍横田基地の軍民共用を実現したい。成田を合わせて3空港で分担するのだ。ニューヨークもジョン・F・ケネディ、ラガーディアとニューアークで賄っている。

 訪れる観光客は、東京以外にも行く。経済的な恩恵は名古屋を含めて全国に及ぶ。前にこの欄でも書いた時間市場、つまり夜中をどう活用するか、というプロジェクトだって前進する。消費が増えないと経済はよくならない。五輪を、下町の小さな工場までお金を回す力にしないといけない。

 東京は全国のモデルになって、そうした施策を先取りしたい。スピード感を持ってやる。僕の信条でもある「決断、突破、解決」が今こそ、必要になる。

  (作家、東京都知事)

 

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