溝口クリニックを訪れて
今回私は栄養療法で有名な溝口クリニックの先生とお会いして、話す機会を得た。メールで聞く限り議論など苦手ということだったが、謙遜の至りだろう、非常に説明上手でアカデミックな方だった。彼はもともと麻酔科で精神科医とは縁遠い存在であるそうだが、精神科領域に携わる人でまともな人は、いつも精神科医以外の気がする。
彼の理論や概念は著書が何冊もあるのでそれを参考にしてほしいが、ここではブログ用に「はしょって」載せてみることにする。また会話の中で感じたことを含めて肯定論、否定論の双方で感想を書いてみたい。
①まず何よりも血糖調節障害の専門家であり、多くの精神症状が血糖調節障害に関係していると述べている。
②薬を使うのではなく食事内容の見直しやサプリメントを中心とするが、精神薬を使用しないわけではない。
③いわゆる脳内精神物質の乱れ(セロトニン、ドーパミン、ノルアド、GABA他)と栄養素の関係に注目する。
④現代の食事は糖分が多すぎ、たんぱくや脂質が少ないのは問題とする。またビタミン系(特にB6、Cやナイアシンや葉酸、核酸も大事らしい)やミネラル(特に鉄分や亜鉛やカルシウム)を重視する。
⑤糖分摂取に問題があったり、血糖調節に問題があると、典型的には反応性低血糖になるが、血糖が下がっていく時にいろいろな精神症状をきたしやすい。
⑥腸内の問題も精神症状に深く関係していると考える。特に内毒素だけの問題でなく、腸内のカンジダ(カビ)について注目している。
⑦彼のクリニックでサプリが高い一番の原因は核酸であるらしい。昔は市販のものや保険用の薬を使っていたらしいが、効きが悪い。予算を相談すれば、それに合わせて数千円でも必要なサプリを調節できるそうだ。
⑧正常値と呼ばれる採血値で正常でないものは多い。そのデータから栄養問題を読みとれることがある。
⑨冬季うつとビタミンDには深い関係がある。
⑩ドロップアウトしていく患者は多いと思う。費用のためか糖質制限などが苦しいためかはわからない。
⑪東洋医学者で分子栄養学に興味があったり、傾倒している人が結構いるそうである。
⑫精神科医は頭の中でどんな物質が動いているのかわかっていない。セロトニンやドーパミンの構成は、生理学の教科書で調べれば載っていることであり、それを精神医学に応用しているにすぎない。
⑬多剤処方は犯罪的である。セカンドオピニオン系の本は購入済みであり、アプローチは違えど賛成する面も多い。東洋医学についての深い知識はない。
⑭栄養療法ですべてが解決するとは思っていない。ただあまりに普及していないことが残念である。この概念が普及すれば精神薬を必要としない人は増えるはず。そこに活動の重点を置きたい。
⑮彼は栄養学と関わりのある精神科医との横つながりがあるが、いわゆる有名な精神科医とはあまり面識がないらしい。それより海外の医師たちと交流が深いようである。
⑯栄養療法業界も精神医学業界と同様、詐欺だらけである。
彼を評価する時、最も評価できるのはデータと医学的理論、EBM的なものを重視していることである。④⑤⑥⑫⑮などはその典型であり、その意味で彼は内因性栄養疾患に伴う二次性精神症状の、まさにスペシャリストと言えよう。また彼は栄養療法にありがちな、高額サプリ売りつけ師と少し違いそうな点も評価できる。本当のところはわからないが、少なくとも数千円から十万弱までいろんな選択をすることができる。
考え方は東洋医学と共通点が多いように感じる。東洋医学者の中には彼の栄養学がヒントになって、東洋医学の科学的穴埋めができるとまで考え、傾倒する人も多い。実際胃腸、食事、医食同源、古典的生活や思想などにおいて通ずる点は多い。また⑬⑭⑯などにあるように、この分野を開拓しようという意気込みも評価できるかと思う。彼はホッファー氏というカナダのDrを心酔しているが、彼も欧米の精神学会に敢然と反抗し立ち向かった人物である。その意思が受け継がれ分野開拓や医師との勉強会によって、内部から変えていこうという気概がひしひしと感じられた。
ほめてばかりはいられない。疑問や批判的に感じたこともいくつかあるので書いてみよう。
まず第一には精神医学という存在に対するとらえかたそのものである。これだけ明確な自己理論があるなら、精神医学も否定するのかと思っていた。しかし私が接した限り精神医学に対するとらえ方や疾患概念の捉え方は、まさに「教科書通り」、「一般通り」であったように感じる。この思想だと精神医学のまやかしは黙認してしまうだろうと感じた。今回の会合では彼の話を聞く時間が多かったので、そういう話題は少なかったが、やっぱり医者だよね、と思ったことは否定しない。まあ自分以外医学を否定しつくす医師をみたことがないので、当然と言えば当然だし、一般的にみても私の方が狂人であることは間違いないのだが・・・彼は栄養学がある限り精神医学にも科学的説明がつくと考えるだろう。しかし私はそもそもセロトニンやドーパミンさえ、真に精神病の原因になっているかどうか疑っているのである。誰ひとりそれらが実際に病気の原因であることを証明した人がいないし、検査所見を示すことさえできない。もし所見を示すことができたとしても普遍性が見出せるとはとても思えない。
これは彼が傾倒している栄養学的問題についても同様である。彼がとらえるうつを例にとれば、悪夢や自責感も一応栄養療法の対象になるのだろうが、私は治療対象となりうるのかどうかからして疑問なわけである。また彼自身全て解決はできないと言っているのだが、自分の患者、特にセカンドオピニオンを求めてくる人たちの場合、栄養学の通じない人が多すぎる。すでに数万円のサプリを飲んできた人も複数いたし、きちんと糖質制限してもびくともしない人もいた。栄養療法が有効だろうと思われる人は自分の中では1~2割しかいない。それは彼の話を聞いた後で思っての数字で、他人に見積もってもらっても3割はいかないだろう。しかしもし3割ならすごい数字ととらえることもできる。自分がよくできない人の3割をもしよくできるのならそれはとんでもない数字で、自分には絶対に出すことはできないのだから。
外因的要素についてはやはり重視していないと感じた。いや重視してなくはないが自分ではアプローチしていないというべきか。少なくともカウンセラーと提携したり複雑な患者は精神科に任しているので、栄養療法に特化しているということだろう。血糖の問題として、原因ではなく、結果や付加的要因ではないか?と思うシーンも沢山あった。例えば乱高下型低血糖という分類があるが、これは教科書でいうと気分変調症に合致して、見方を変えればADHD的な素因を持っている人たちともいえる。私は個人的仮説として、この人たちは性ホルモンや副腎ホルモンの分泌が普通と異なると思っているのだが、副腎ホルモンなどは血糖と関係するホルモンである。その意味で血糖というのは何かの結果を見ているのに過ぎないのでないか、と思うことがあったのは否定できない。まあホルモンの場合検査の問題だけでなく、日内変動を考えねばならず、それをデータに表すとなるとさらに難しいので、難癖つけてるだけかもしれないが。
いろいろ今回は批判を含めて長く書いたが、それはこの分野への期待の裏返しだと思っていただきたい。彼の活動と栄養学の内容には大いなる可能性を感じる。ぜひ暇を作って彼の勉強会に顔を出せればと思っている。
①まず何よりも血糖調節障害の専門家であり、多くの精神症状が血糖調節障害に関係していると述べている。
②薬を使うのではなく食事内容の見直しやサプリメントを中心とするが、精神薬を使用しないわけではない。
③いわゆる脳内精神物質の乱れ(セロトニン、ドーパミン、ノルアド、GABA他)と栄養素の関係に注目する。
④現代の食事は糖分が多すぎ、たんぱくや脂質が少ないのは問題とする。またビタミン系(特にB6、Cやナイアシンや葉酸、核酸も大事らしい)やミネラル(特に鉄分や亜鉛やカルシウム)を重視する。
⑤糖分摂取に問題があったり、血糖調節に問題があると、典型的には反応性低血糖になるが、血糖が下がっていく時にいろいろな精神症状をきたしやすい。
⑥腸内の問題も精神症状に深く関係していると考える。特に内毒素だけの問題でなく、腸内のカンジダ(カビ)について注目している。
⑦彼のクリニックでサプリが高い一番の原因は核酸であるらしい。昔は市販のものや保険用の薬を使っていたらしいが、効きが悪い。予算を相談すれば、それに合わせて数千円でも必要なサプリを調節できるそうだ。
⑧正常値と呼ばれる採血値で正常でないものは多い。そのデータから栄養問題を読みとれることがある。
⑨冬季うつとビタミンDには深い関係がある。
⑩ドロップアウトしていく患者は多いと思う。費用のためか糖質制限などが苦しいためかはわからない。
⑪東洋医学者で分子栄養学に興味があったり、傾倒している人が結構いるそうである。
⑫精神科医は頭の中でどんな物質が動いているのかわかっていない。セロトニンやドーパミンの構成は、生理学の教科書で調べれば載っていることであり、それを精神医学に応用しているにすぎない。
⑬多剤処方は犯罪的である。セカンドオピニオン系の本は購入済みであり、アプローチは違えど賛成する面も多い。東洋医学についての深い知識はない。
⑭栄養療法ですべてが解決するとは思っていない。ただあまりに普及していないことが残念である。この概念が普及すれば精神薬を必要としない人は増えるはず。そこに活動の重点を置きたい。
⑮彼は栄養学と関わりのある精神科医との横つながりがあるが、いわゆる有名な精神科医とはあまり面識がないらしい。それより海外の医師たちと交流が深いようである。
⑯栄養療法業界も精神医学業界と同様、詐欺だらけである。
彼を評価する時、最も評価できるのはデータと医学的理論、EBM的なものを重視していることである。④⑤⑥⑫⑮などはその典型であり、その意味で彼は内因性栄養疾患に伴う二次性精神症状の、まさにスペシャリストと言えよう。また彼は栄養療法にありがちな、高額サプリ売りつけ師と少し違いそうな点も評価できる。本当のところはわからないが、少なくとも数千円から十万弱までいろんな選択をすることができる。
考え方は東洋医学と共通点が多いように感じる。東洋医学者の中には彼の栄養学がヒントになって、東洋医学の科学的穴埋めができるとまで考え、傾倒する人も多い。実際胃腸、食事、医食同源、古典的生活や思想などにおいて通ずる点は多い。また⑬⑭⑯などにあるように、この分野を開拓しようという意気込みも評価できるかと思う。彼はホッファー氏というカナダのDrを心酔しているが、彼も欧米の精神学会に敢然と反抗し立ち向かった人物である。その意思が受け継がれ分野開拓や医師との勉強会によって、内部から変えていこうという気概がひしひしと感じられた。
ほめてばかりはいられない。疑問や批判的に感じたこともいくつかあるので書いてみよう。
まず第一には精神医学という存在に対するとらえかたそのものである。これだけ明確な自己理論があるなら、精神医学も否定するのかと思っていた。しかし私が接した限り精神医学に対するとらえ方や疾患概念の捉え方は、まさに「教科書通り」、「一般通り」であったように感じる。この思想だと精神医学のまやかしは黙認してしまうだろうと感じた。今回の会合では彼の話を聞く時間が多かったので、そういう話題は少なかったが、やっぱり医者だよね、と思ったことは否定しない。まあ自分以外医学を否定しつくす医師をみたことがないので、当然と言えば当然だし、一般的にみても私の方が狂人であることは間違いないのだが・・・彼は栄養学がある限り精神医学にも科学的説明がつくと考えるだろう。しかし私はそもそもセロトニンやドーパミンさえ、真に精神病の原因になっているかどうか疑っているのである。誰ひとりそれらが実際に病気の原因であることを証明した人がいないし、検査所見を示すことさえできない。もし所見を示すことができたとしても普遍性が見出せるとはとても思えない。
これは彼が傾倒している栄養学的問題についても同様である。彼がとらえるうつを例にとれば、悪夢や自責感も一応栄養療法の対象になるのだろうが、私は治療対象となりうるのかどうかからして疑問なわけである。また彼自身全て解決はできないと言っているのだが、自分の患者、特にセカンドオピニオンを求めてくる人たちの場合、栄養学の通じない人が多すぎる。すでに数万円のサプリを飲んできた人も複数いたし、きちんと糖質制限してもびくともしない人もいた。栄養療法が有効だろうと思われる人は自分の中では1~2割しかいない。それは彼の話を聞いた後で思っての数字で、他人に見積もってもらっても3割はいかないだろう。しかしもし3割ならすごい数字ととらえることもできる。自分がよくできない人の3割をもしよくできるのならそれはとんでもない数字で、自分には絶対に出すことはできないのだから。
外因的要素についてはやはり重視していないと感じた。いや重視してなくはないが自分ではアプローチしていないというべきか。少なくともカウンセラーと提携したり複雑な患者は精神科に任しているので、栄養療法に特化しているということだろう。血糖の問題として、原因ではなく、結果や付加的要因ではないか?と思うシーンも沢山あった。例えば乱高下型低血糖という分類があるが、これは教科書でいうと気分変調症に合致して、見方を変えればADHD的な素因を持っている人たちともいえる。私は個人的仮説として、この人たちは性ホルモンや副腎ホルモンの分泌が普通と異なると思っているのだが、副腎ホルモンなどは血糖と関係するホルモンである。その意味で血糖というのは何かの結果を見ているのに過ぎないのでないか、と思うことがあったのは否定できない。まあホルモンの場合検査の問題だけでなく、日内変動を考えねばならず、それをデータに表すとなるとさらに難しいので、難癖つけてるだけかもしれないが。
いろいろ今回は批判を含めて長く書いたが、それはこの分野への期待の裏返しだと思っていただきたい。彼の活動と栄養学の内容には大いなる可能性を感じる。ぜひ暇を作って彼の勉強会に顔を出せればと思っている。