■ 毎日新聞・老いじたく読本

墓は負の遺産?

ある夫婦から講演会でこんな質問を受けた。結婚して東京で暮らす一人娘から「住まいを用意するから近くに引っ越してこない?ただ、そちらにある市営墓地の先祖代々のお墓だけは処理してきて」と言われ迷っているという。

この娘さんの考えは、遠くの故郷にある先祖代々の墓は、墓参りが大変で「負の遺産」つまり永遠に終わりのない借金のようなもの、という受け止め方だ。ここまではっきり言う人は少数派かもしれないが、共感する人は潜在的に多いのではないだろうか。

「あなた方は、どうお考えですか」。逆に夫婦に聞いてみた。すると、「悩んだ揚げ句、娘の言い分に同意する気持ちになっている」と答えた。

となれば、問題は、どんな選択肢があり、どれを選ぶかということになる。私は次の選択肢を示した。(1)市営墓地の墓を放置(放棄)する(2)改葬する。

(1)は、管理費の支払いなど、墓地を使うために果たさなければならない義務を放棄することだ。管理費は払わない、草刈りなど墓の世話もしない、となれば、市役所は墓地の無縁化手続きをとり、墓石は撤去され、その場所はほかの人に貸し付けられるだろう。

この方法だと費用はほとんどかからないが、「心」の問題が残る。まず、親類や長年付き合った地域の知人への世間体。先祖の墓のお守りもできない人、という非難に耐えうるか。

もう一つは、将来何か悪いことが起きたとき、「先祖の墓を捨てたためではないか」と精神的ストレスになるかもしれない。私は、その夫婦に「先祖の墓を捨てたからといって、たたりや災難は起きないと思いますよ」と伝えたが、割り切れない人も多いだろう。

(2)の方法は、お骨を他の施設へ移すことだが、永代管理付き合葬墓(または合祀(ごうし)墓)という方法がある。ただ、正式に手続きをとればかなりお金がかかる。

まず、現在の墓の土地は借り物だから、更地にして市に返さなければならない。次にお骨の行き先を取得するお金もかかる。

私が建立したすがも平和霊苑にも13年前、共同の墓が建てられ、今は「もやいの会」が運営している。他に主だった合葬墓として当時は、京都の常寂光寺や新潟県の妙光寺の納骨堂くらいしかなかったが、今は400カ所を超すともいう。費用も永代管理料(供養料)付きで数十万円から百万円程度といろいろだ。選ぶのが大変だが選択肢は無限にある。