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ビル・ゲイツ氏 世界の課題と日本を語る

9月16日 22時35分

芳野創記者

アメリカのIT企業「マイクロソフト」の創業者でパソコン時代を切り開いたビル・ゲイツ氏。今は会社の日常業務から手を引き、妻のメリンダさんと共に慈善活動に専念しています。貧困や難病など世界が抱える課題や日本が果たすべき役割について、アメリカ総局の芳野創記者がゲイツ夫妻に話を聞きました。

世界最大級の慈善団体 活動の現状は

アメリカ西部シアトルに拠点を置く「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」は、世界的な富豪であるビル・ゲイツ氏の寄付を基に設立された世界最大級の慈善団体で、現在、基金の規模は383億ドル(日本円で約3兆8000億円)。ゲイツ氏と妻のメリンダさん、それにゲイツ氏の父親が共同議長として組織を率いています。
毎年、ポリオやエイズなどの対策や発展途上国の開発援助、アメリカの教育の支援に多額の寄付を行っており、ゲイツ夫妻も頻繁にアフリカやインドを訪問しています。
アメリカではメリンダさんの知名度も高く、ことし、アメリカの経済誌「フォーブス」は、世界で最も影響力がある女性の第3位に選んでいます。ゲイツ夫妻に、まず、慈善活動の現状について話を聞きました。

−資金を効率的に活用するために慈善活動の成果を評価することにこだわっているようですね。

ビル・ゲイツ氏:
貧しい人々への寄付は本当に必要で、使われるお金は、例え1円でも最も効果的な方法を考えなければなりません。私たちは子どもの死亡率を低下させたいと考えています。子どもが確実に成長し、知識が得られる環境を整えれば、その国は自立的に成長することができるはずなのです。
ワクチンの普及は取り組みがまだ不十分ですが、私たちは過去5年間、こうした取り組みをうまくやっている国もいくつか目にしました。その方法は、ほかの国にも広がっています。私たちの財団の資金がどのように使われているのかや、子どもの死亡率がこれまでないペースで低下していることを報告できるようになってきました。

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−メリンダさんは、家族計画の分野に熱心に取り組まれているようですが、どのような目標を設定して取り組んでいるのですか。

メリンダ氏:
女性が確実に避妊具を入手できるようにすべきだと思います。現在、2億人の既婚女性が避妊具を使いたいのに入手できていません。
私たちは、1億2千万人の女性に無償で避妊具を届けたいと思っています。避妊具の普及を掲げる世界基金の取り組みに対し、いくつかの国が貢献する用意があると名乗り出てくれています。これまで避妊具の提供は手つかずでしたが、今やアフリカの7つの国が避妊具提供の計画を立てています。すべて、女性を中心とした取り組みです。大変な進歩だと思います。

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国連総会で何を語る?

今月、ニューヨークで開催される国連総会で、ゲイツ夫妻は、貧しい人たちや途上国への支援をテーマにスピーチする予定です。2000年の国連ミレニアム・サミットで採択されたミレニアム開発目標では、貧困や飢餓の撲滅や乳幼児の死亡率の削減など2015年までに達成すべき8つの目標が掲げられました。
ゲイツ夫妻は、こうした目標の達成状況や次の目標をどのように設定すべきかという課題について話すことにしています。

−国連の貧困層を減らすという目標について、これまでの進ちょく状況を教えてください。また、現状をどう評価されますか。

ゲイツ氏:
貧困を半減させるという目標は、期限に先立って到達しました。子どもの死亡率については、もう少しで目標に到達しますが、これは2015年以降も続ける必要があります。
成人の病気については、2000年の九州沖縄サミットで発足した世界基金が中心となって取り組んでいます。金融危機の影響で寄付金を増やすことが難しくなりましたが、大変、効果的な取り組みです。次の目標をさらに野心的なレベルに設定することもできるのではないかと思っています。

メリンダ氏:
ビルが今、話した世界基金は、日本からも資金支援をいただいています。エイズウイルスへの感染による死亡率は、基金の活動によって20%低下しました。マラリアの死亡率は26%、日本でも感染例のある結核の死亡率も40%低下しました。世界基金の活動の成果です。
アフリカを訪問すると蚊帳を目にすることがありますが、世界基金は3億張の蚊帳を配布しました。アフリカの人たちはこの蚊帳の中で寝ることで命が守られています。この基金の10年間にわたる活動によって状況は大きく変化しました。

−国連総会で予定しているスピーチでは、何に焦点を当てるつもりですか。

ゲイツ氏:
国連総会でスピーチさせていただくのは本当に光栄なことです。世界の最も貧困な層は自分が食べることに必死で、こうした場に出てくることはありません。私たちは、彼らが何を必要としているのかを代わりに訴え、この目で見てきたことを伝え、財政が厳しい中でも貧困層への対策が優先されるようにしたいと考えています。
メリンダと私は、なぜ私たち財団の資金をこの目的のために提供しようと決めたのかをスピーチし、現地で見た成功事例についてお伝えするつもりです。

−ミレニアム開発目標の次の目標にも焦点を当てますか。

メリンダ氏:
もちろんです。私たち2人とも、ミレニアム開発目標の次の目標に焦点を当てるつもりです。ミレニアム開発目標は報告するのにふさわしいテーマだと思っています。例えば、乳幼児の死亡率についてどのような進展が見られるのか、世界に知ってもらうことができるからです。
次の目標はシンプルで、検証できるものにすべきだと考えています。女性が避妊具を入手できるようにすること、幼児や新生児の死亡率が低下し続けること、貧困に苦しむ人の数が減っていくこと、こうしたテーマが次の目標の中心となることは間違いありません。これがいかに重要なことかという強いメッセージを出すためのお手伝いができればと思います。

日本が開発援助の分野で果たす役割は

ゲイツ夫妻の財団は、3大感染症と呼ばれるエイズと結核、マラリアの予防や感染者の治療に力を入れています。感染症対策に取り組む世界基金に多額の寄付を行い、活動を支援してきました。この世界基金が発足したきっかけとなったのは、2000年のG8=九州・沖縄サミットでの各国間の合意で、日本はその後、基金の活動に多額の支援を続けています。こうした経緯からゲイツ夫妻は、感染症対策で日本が果たす役割は大きいと考えています。

−今後日本はどのような役割を担うべきですか。

ゲイツ氏:
日本は世界基金の発足当初から参加しており、日本からの支援は常に重要なものでした。ことしの終わりまでに、今後3年間に必要な資金を集めなければなりません。そして、蚊帳が十分に行き渡っているのか、今よりずっと効果的な結核の新薬を確保し、配布すべきかどうかというようなことが決められます。
人々は日本の役割に関心を向けるでしょう。開発援助の分野で日本は常にリーダー国の1つでした。どの国も課題を抱えています。もちろん日本もそうです。しかし、私たちは、開発援助が引き続き優先事項として扱われるよう願っていますし、世界基金はこうした寛容さを示すうえで、すばらしい方法であると思います。

−なぜ世界基金に資金を拠出することを決めたのですか。なぜ日本がそのように重要な役割を果たすことになるのでしょうか。

メリンダ氏:
私たちが世界基金に資金を拠出することを決めたのは、途上国に対して、まとまった資金をとても効率的に提供できるからです。そして、私たちが関心のあるテーマに焦点を当てています。
例えば、医薬品の価格を下げようとしたり、結核を予防する革新的な方法の普及に取り組んだりしていますが、これは私たちがアフリカの人たちに広げようと考えていることなのです。これは財団の資金を拠出すべき対象だと考えていますし、各国の政府に、こうした取り組みがいかに効率的で検証可能なものか、そして、提供された資金が変化をもたらすことができるかということを、ぜひとも知ってほしいと思います。日本は、こうした分野で大きな役割を担っています。

−国連総会に出席する安倍総理大臣とはどのような話をしたいですか。

ゲイツ氏:
最も貧しい人たちを支援するという私たち財団の目標と、日本が掲げる目標には多くの共通点があります。安倍総理大臣と世界基金について話し合いたいと思いますが、これはすばらしい機会になるでしょう。
日本はポリオ撲滅のために多額の資金供出をしてきましたし、私もこの問題に関しては深く関わっています。これは、私自身の活動としては最大のものですので、日本が果たしてきた役割に対して、安倍総理大臣に感謝のことばを述べたいと思います。また、日本からの資金拠出について、日本の方々に理解をいただくにはどうすればいいか、総理に考えをうかがいたいと思っています。

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ゲイツ夫妻が日本に寄せる期待とは

2020年の東京オリンピックの招致が決定し、安倍政権の経済政策、アベノミクスを後押しする効果に期待が高まっていますが、最後に、ゲイツ夫妻が日本経済や日本社会の現状をどう見ているのか話を聞きました。

−安倍政権の経済政策や日本経済の現状についてはどのように評価されますか。

ゲイツ氏: 経済成長は誰だって嬉しいものです。規制改革の問題はどの国でも複雑ですが、これについては、より具体的な取り組みが重要になってくると思います。日本は世界経済の中心の役割を担っています。どの国も、一国だけで経済を成長させることはできません。日本は今、やるべきことを行っていて、みんな、それに満足しているという状況だと思います。今後、税金の問題が解決され、規制改革が実行されれば、日本はこれから数十年すばらしい時期を迎えることができると思います。

−日本もさまざまな課題を抱えていますが、最近の日本社会の変化についてどのように見ていますか。

メリンダ氏:
日本では職場で活躍する女性が増えていますが、こうした議論ができることは、すばらしいことだと思います。日本の女性たちは高い教育を受けており、こうした人たちが社会に参加していることは大変喜ばしいことです。世界中にこうした動きが広がればと思っています。

−日本の若者に海外での挑戦を促し、国際的な視野を身につけるようにするには何が必要ですか。

メリンダ氏:
インターネットが一つの役割を担っています。世界中の学生たちの間で見ることができる現象ですが、誰もがネット上でつながることができるようになっています。
ザンビアやケニアの人たちの話を学ぶことができます。地球のさまざまな場所で人々がどのように暮らしているのか、まず知ってほしいと思います。そうすれば、その場所を訪れてもっと勉強したい、そこに住んでいる人から学びたいという思いが出てくるはずです。さらに、アフリカの現地の女性を支援するために少額の資金提供をしたいと考えるかもしれません。こうしたことがインターネットを通じてできるようになっています。
日本が長年にわたって焦点を当ててきた技術の多くが次世代のために役立つでしょうし、これはとても楽しみなことです。

−2020年のオリンピックは東京で開催されることが決まりましたが、日本にはどのような影響をもたらすでしょうか。

ゲイツ氏:
日本で2020年のオリンピックが開催されることはすばらしいことだと思います。日本はすばらしい開催国となるでしょうし、日本のすばらしさを人々の心に留めることができるでしょう。私たちも、もちろんこうした経験ができればと楽しみにしています。みんな、日本のすばらしさ、再生と革新の姿を目にするはずです。

メリンダ氏:
日本がオリンピックの開催国に決まったとき、我が家ではそれが大きなニュースでした。息子がすぐに部屋に入ってきて「2020年に日本に行こうよ!」と言ったんです。子どもたちはオリンピックが大好きで、私たちはオリンピックを、ほかの文化について学ぶ機会にしてほしいと思っています。ですので、私たち家族にとっても楽しい機会となるはずです。

−消費者向けの製品を中心に日本メーカーの存在感が低下していると指摘されています。こうした日本の産業の現状についてどのように評価されていますか。

ゲイツ氏:
経済が後退していた数十年間、日本は今までやってきたことの何がよくて何がそうでなかったのかを謙虚に見つめていたと思います。そこから次の大きな成功が訪れるはずです。
日本は強さを持っています。ただ、起業したばかりの新興企業の現状や製品の革新性について考えると、さまざまな分野で規制改革に取り組むことが重要になってくると思います。日本はこうした課題に向き合っていると思いますし、現在、政治の分野で実行力が見られるようになっているので、私は今後の日本について楽観的に捉えています。