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「トゲの芸術」世界が評価
9月20日 8時21分

「トゲの芸術」世界が評価

イタリアで2年に一度開かれている国際美術展、ベネチア・ビエンナーレ。
この世界有数の美術展に、専門的な美術教育を受けていない日本人男性の陶芸作品が展示されています。
ユーモラスな表情をした動物などの作品は、どれも小さなトゲでびっしりと覆われているのが特徴です。
この独創性あふれる作品が今、国際的な注目を集めています。

福祉施設の工房で制作

作品を手がけているのは、滋賀県草津市の澤田真一さん(31)。
自閉症で、障害者福祉施設に通っています。
このうち週に3日、山の中にある陶芸工房に行き、一心に土と向き合います。
は虫類を思わせる動物や表情豊かな仮面、トーテムポールのような造形などに取り組み、トゲを1つ1つ丁寧に付けて完成させます。
作品に名前はなく、トゲが何を表しているのかも分かりません。
澤田さんが作品を作り始めたのは平成13年。
次第に作品の評価が高まり、5年前からは海外でも展示されるようになりました。
澤田さんを後押しする滋賀県社会福祉事業団によりますと、スイスでの展示を見たベネチア・ビエンナーレの総合ディレクターから、「作品を展示したい」と連絡があったということです。

多くの観光客でにぎわうベネチアの、各国の作品がずらりと並ぶ企画展の会場。
澤田さんの作品は、見る人を取り巻くように円形に配置されたケースの中に、26点が展示されています。
なぜ澤田さんの作品が国際的に評価されているのか。
東京国立近代美術館の保坂健二朗主任研究員は、「シンプルだがさまざまなバリエーションがあり、トゲの反復と生き物としての魅力が高いレベルで融合している。楽しんで作っている感じが非常によく分かり、作っている間、作品と会話しているのではと思いたくなる」と指摘しています。

作品や作者の権利は

澤田さんの作品について、保坂さんや滋賀県社会福祉事業団は、「生(き)の芸術」という意味の「アール・ブリュット」の作品と位置づけています。
「アール・ブリュット」は、専門的な美術教育を受けていない人が伝統や流行にとらわれずに表現した芸術で、欧米では作品が売買の対象にもなっています。
作品の評価が高まるのに伴い、課題も浮かび上がっています。
作者に知的障害などがあり判断能力が十分でない場合、展示や売買の打診が施設に持ちかけられることがあります。
その際に、作品の所有権や著作権は誰にあるのか、報酬や収益は本人のもとに届くのか、といった点があいまいになってしまうおそれがあるのです。
このため滋賀県は去年、福祉施設に向けた「著作権等保護ガイドライン」をまとめました。
Q&Aも用意され、例えば事業所の活動でできた作品の所有権については、「作者や家族と話し合い、合意(契約)して決定するのが原則」としています。
また、作品が高値で売れた場合の対価については、「必要経費を差し引いた全額を支給するなどの対応が望まれる。作品の出展、販売、二次利用についてルールを明確化しておくことが望まれる」などと説明しています。
しかし県によりますと、去年秋のアンケート調査で「作品展示の承諾書を締結している」と答えた事業所はおよそ3割にとどまっていて、まだ十分に浸透していないのが現状です。

国も支援策を検討

国も支援策を検討

高まる評価と浮き彫りになった課題に対し、国も動きだしました。
ことし5月には安倍総理大臣が澤田さんなど障害のある作者を総理大臣官邸に招き、「政府としても、頑張りや才能を全面的に応援したい」と話しました。
また厚生労働省と文化庁は合同で、有識者などによる「懇談会」を設けて支援策を議論。
先月「中間取りまとめ」を公表し、▽障害者の権利を巡る相談窓口の設置、▽作品の評価・発掘・発信などを行う人材の育成、▽障害者の芸術活動に携わる人たちのネットワークの構築などを提言しています。
これを受けて、厚生労働省は作家のいる福祉施設をサポートするためのモデル事業を、文化庁は国内でどのような作品が作られているかの調査を、それぞれ来年度から新たに始めたいとしています。
一方、この懇談会では、関係者どうしの認識や考えの違いも浮き彫りになりました。
支援の拠点となる施設の在り方や障害者の芸術の呼び方については、意見が一致せず結論が出ませんでした。
さまざまな団体が、それぞれの理念に基づいて各地で活動を続けているためです。

海外で注目を集めている日本の作家は澤田さんだけではなく、去年はオランダ、ことしはイギリスでも展示が行われました。
国際的な評価が高まるなか、作者や作品を守るために何が必要なのか、環境の整備に向けた模索が始まっています。

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