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【デキる人の健康学】ロシアの秘密研究都市を訪ねて

産経新聞 9月6日(金)16時58分配信

【デキる人の健康学】ロシアの秘密研究都市を訪ねて

ロシアの秘密研究都市を訪ねた白澤卓二さん(写真:産経新聞)

 ロシアには秘密都市と呼ばれていた研究都市がある。オブニンスクは人口10万人の小さな町、モスクワの南西102Kmに位置し12の科学研究所が立地、原子力発電技術、放射線利用、宇宙開発、放射線医学、気象学などに関する研究を行っている。この町は冷戦時代にはまさしく秘密都市と呼ばれて極秘の国家プロジェクト研究が行われていた。ソビエト初の原子力発電所であるオブニンスク原子力発電所が1956年に建設され、ソビエト連邦初の原子力潜水艦「K-3」の乗組員が訓練を受けた場所でも知られている。

 私が訪れたオブニンスク医学放射線研究所は1985年に原子力の平和的利用、放射線に関する研究、診断、治療技術の開発を目的として設立された。1986年のチェルノブイリ原発事故では、大気に大量に放出された放射生物質による健康障害の調査研究で重要な役割を果たした。

 放射線治療細胞学研究部門のコノプリャニコフ教授は放射線に対して感受性が最も高い幹細胞に注目し、30年近く幹細胞の基礎研究と臨床研究を続けている。幹細胞は様々な細胞に分化できる能力と自己複製能力を併せ持つ細胞のこと。幹細胞は必要に応じて分裂し臓器の修復や再生で重要な役割を果たすことから最近の再生医療の分野で注目されていることを本コラムでも紹介した。

 原発事故当時、チェルノブイリ原発の4号原子炉で働いていた作業員と事故現場に駆けつけた消防員の計33名はモスクワの病院に運ばれ骨髄移植を受けた。幹細胞は放射線に対して最も感受性が高いために、幹細胞の分裂が盛んな骨髄や小腸は放射線を受けると最も重篤な臓器障害を発症する。

 小腸は幹細胞が豊富に存在し常に「若さ」を保ち続ける「不老」の臓器と考えられているが、チェルノブイリの事故のように大量の放射線に急性暴露すると臓器が壊死を起こしてしまう。骨髄は移植できるが、小腸は移植できないのでモスクワの病院に運ばれた作業員と消防員は全員、小腸の壊死により死亡した。

 コノプリャニコフ教授はチェルノブイリ原発事故より学んだ教訓から、幹細胞が放射線障害の克服にも応用できる可能性に注目した。間葉系幹細胞という骨や軟骨、血管、筋肉に分化できる幹細胞を骨髄より採取し、試験管内で細胞培養する技術を確立した(写真)。放射線治療を受けた乳がんの患者さんが正常な肺に放射線を浴びて放射線肺炎を合併することがある。教授が放射線肺炎を併発した乳がん患者に間葉系幹細胞移植をしたところ、肺炎が劇的に改善した。

 これまでに2000例以上の幹細胞移植を安全に行い、クローン病や重症心不全患者にも劇的な効果を見いだした。教授自身、これまでに8回の幹細胞移植を自ら行い毎年若返っていると自信たっぷりに語った。確かに75歳とは思えないバイタリティに溢れたその姿は説得力に満ちていた。

 ■白澤卓二(しらさわ・たくじ) 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て2007年より順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など100冊を超える。グロービア(http://www.glovia.net/)でも連載中。

最終更新:9月6日(金)17時3分

産経新聞

 

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