この2月1日、都内某所で「在日コリアンの日本国籍取得権確立協議会=確立協」(会長 李敬宰)設立記念集会という200名ほどの集まりがあった。この集会の講師として櫻井よしこさんが招かれた。テーマは「在日コリアンの友へ」だった。実は、この小さな集会は在日コリアン社会においては歴史的な意義を持つものである。 というのも、現在、「在日韓国・朝鮮人が、いつでも、届け出るだけで日本国籍が取れる法律(「特別永住者等の国籍取得の特例に関する法律」)が準備されている。だが、この法律に反対する人たちがいるために立法化が遅れている。反対には深い事情が絡んでおり、一歩前に進める運動には、“在日コリアン社会の分裂”という大きなリスクが伴う。このリスクを承知で「この法律の成立に賭けよう」という人々が集まったのだった。 反対する人たちとは主に在日1世、2世。かつての日本の同化政策を体現してきた人たちである。従来、日本国籍取得、つまり、帰化は、一部の在日コリアンの人たちからは民族の裏切り行為と映り、帰化する側にもある種の勇気と断念を迫る行為だった。 しかし……「この法案をこのまま葬り去っていいものか」 この集会の趣旨にはこうある。「日本国籍を取得した在日韓国・朝鮮人が『コリア系日本人』として歩めば、日本を『多民族・多文化共生』社会に導く一助になります。これからは『コリア系日本人』の時代です」 ある若い在日コリアンは「この法案(特別永住者等の国籍取得の特例に関する法律)は、同様に国会に上がっている定住外国人の地方選挙権付与法案をつぶすためのスリ替え法案なんです。だから、趣旨は理解できるけれども、僕は日本国籍を取得しません」と話す。 対して、確立協の考え方は「地方選挙権付与法案を推進してきた大韓民国民団などの在日コリアン団体がこの国籍法改正案に違和感を覚えるのは当然だし、まして、国籍法改正案が成立し、地方選挙権付与法案が廃案となったあかつきには、在日コリアンの日本国籍取得は加速度的に拡大する可能性がある……しかし、国籍法改正案は、地方選挙権付与法案を議論する過程で、現状の帰化申請の理不尽さが認識された結果、誕生したもの……いたずらに阻止するのでなく、大所高所から判断すべき」(資料より)というものだ。 ●放っておけば在日コリアンは消滅する この集会には、1977年に「朝鮮系日本人を目指すべきだ」と提言(坂中論文)し、在日コリアン社会に論争を巻き起こした坂中英徳現法務省東京入国管理局長も出席していた。坂中論文の趣旨は、在日コリアンはこのまま何もしないなら21世紀には日本社会から退場することになる。その前に、民族を継承する道を探る必要があるのではないか、というものだった。 現在、韓国・朝鮮籍の在日人口は約48万人と言われる。最近では毎年1万人ずつ減っているという。1985年に国籍法が改正され、夫婦のどちらかが日本人なら子どもは日本国籍となる。在日コリアンの9割が日本人と結婚し、かつ、子どもが通称名を使うのが一般的な現状ではその数は減る一方だ。加えて、1世は高齢化し、自然減は加速する。この傾向が続けば、四十数年で在日コリアンは日本社会から表面上、消え去る計算だ。 帰化申請制度と異なる、権利としての日本国籍取得。在日コリアン(特別永住者)が望めば本名のまま簡単に日本国籍が取れるようすべきではないか、そうした考え方が出てきても不思議ではない。 日系アメリカ人やコリア系アメリカ人のように「コリア系日本人」になることで逆に民族の伝統や文化を継承することができる……世代間の考え方のギャップをどう埋めることができるか。“内なる戦い”が本格化するのはこれからだ。 (次ページ=櫻井よしこさんの講演録) |